早わかり有限要素法 その4

平面応力

下図左は前項で取り上げた三次元要素を再掲したものです。
右にあるのは、三次元要素の z 方向のサイズ ( 厚さ ) が小さい「板」のようなもので、応力についても、やや実状に近い形で描き直しています。
 

ここで、この二次元要素に対して以下のような条件を設けます。
  • 板の直交方向 ( z 方向 ) に作用する外力はない
  • さらに板の直交方向の拘束もないので、この方向の応力は 0 である
  • 板の厚さ方向 ( z 方向 ) に関する応力の変化はなく、一定である
つまりここから
  σz = τzx ( τxz ) = τzy ( τyz ) = 0
となり、さらに τyx = τxy なので、この二次元要素の応力ベクトルの未知成分は最終的に
  { σx  σy τxy }
の三つだけになります。これに対応するひずみベクトルの成分は
  { εx εy γxy }
です。
さらに、この場合の節点の自由度成分は ( x , y ) の二つになります。
ここでは最もシンプルな三角形 1 次要素 ( 計 3 節点 ) を考えることにすると、下図のように、この場合の自由度の成分は計 6 個で、節点の変位ベクトルは
  ue = { ux1 uy1 ux2 uy2 ux3 uy3 }
です。
  
「その 2」の最後に書いたように、要素の剛性マトリクスを作るためには以下の三つの値が必要です。
  ・ 形状関数マトリクス [ N ]
  ・ 応力 - ひずみマトリクス [ D ]
  ・ ひずみ - 変位マトリクス [ B ]
以下、これらについて順に見ていきましょう。

● 形状関数 [ N ]
これは「節点変位から要素内の任意位置の変位を求める」ものです。
さらに、もしこれが位置の一次関数であらわされるのなら、以後の操作はいたって簡便になるのでした。
任意位置 ( x, y ) の変位量 u, v が位置の一次関数であるとは、具体的に言うと、それが下図中央にあるような式であらわされることを意味します。
  
ここにある 6 個の係数 ( a1, a2, … , b1, b2, … ) は求めることができます。要素の頂点にある計 6 個の自由度成分ごとに式を立てれば、6 個の未知数に対して 6 個の方程式ですから━━とは言え、これは要素がたまたま 3 節点 6 自由度だからそうなったのであり、それ以外の場合は保証できないことになりますが、これについては後ほどふれます。
ともあれ、ここから形状関数 [ N ] を作ることができれば、uv を成分とする任意位置の変位量 { u } は節点変位量 { ue } から
  { u } = [ N ] { ue }
で得られます。
ここにある [ N ] は 2 行 6 列で、以下のような形をとります。n1 n2 n3 の具体的な値については略しますが、いずれも x あるいは y の一次関数です。
  
● ひずみ - 変位マトリクス [ B ]
これは「節点変位から要素内の任意位置のひずみを求める」ものです。
ひずみと変位の関係については「その 2」でもふれましたが、線材だったので一つの位置変数 ( 端部からの距離 ) しかありませんでした。
しかし今回は ( x, y ) の二つの変数があるので、任意位置の変位量 uv に応じたひずみ { ε } の三成分は下のような偏微分 ( もしこの用語と記号に抵抗があるのでしたら「たんなる微分」でも構いません ) であらわされることになります。
  
εxεy は線材と同じで、変位量を距離で微分したものです。γxy については少々説明が必要かもしれませんので、下に図示しました。
  
先に書いたように、ひずみ - 変位マトリクス [ B ] とは形状関数 [ N ] を距離で微分したものです。
そこで、先の [ N ] に上の関係を適用すると、3 行 6 列の [ B ] が下のように得られます。
  
ここにある n1 n2 n3x あるいは y の一次関数なので、[ B ] の成分はすべて定数です。
結局、任意位置のひずみ { ε } は節点の変位量 { ue } から
  { ε } = [ B ] { ue }
で求められることになります。

● 応力 - ひずみマトリクス [ D ]
これは応力 { σ } とひずみ { ε }
  { σ } = [ D ] { ε }
という関係をあらわすもので、以下になります ( E : ヤング係数・ ν : ポアソン比 ) 。
  
● 要素の剛性マトリクス [ Ke ]
以上の値をもとに要素の剛性マトリクス ( 節点力 - 変位の関係 ) を作りますが、これには「仮想仕事の原理」を使います。仮想仕事の原理とは
物体が外力の下で釣り合い状態にある時、物体に微小な仮想変位を与えても、物体内に生じる内部仕事 ( 仮想変位によるひずみ × 応力 ) と外力がなす外部仕事 ( 外力 × 仮想変位 ) は等しい
というものです。
まず最初に、以下のような節点力ベクトル fe と節点変位ベクトル ue を作ります ( 下図右 ) 。
  fe = { fx1, fy1, fx2, fy2, fx3, fy3 }
  ue = { ux1, uy1, ux2, uy2, ux3, uy3 }
さらに ue に対応した微小な仮想変位ベクトル ue* と要素内の仮想ひずみベクトル ε* ( 成分 εx, εy, γxy ) を考えて仮想仕事の原理を適用し、それを変形すると下のようになります。
━━なお、ここにある二重積分の記号と dxdy は「要素の全面積について積分する」という意味です。また、記号 T は転置マトリクス ( 元のマトリクスの行と列を入れ替えたマトリクス ) をあらわすもの。
  
上にある式の大部分は忘れてもらって構いませんが、下線がある [ Ke ] ( 要素の剛性マトリクス ) の式だけはおぼえておいてください。
先に書いたように、ここにある [ B ][ D ]( x, y ) に依存しない定数です。なので、これらは丸ごと積分記号の外に出すことができるはず。そしてこれを外に出してしまうと、この二重積分はたんに要素の面積をあらわすに過ぎません。そこでこれを A とすると、最終的に
  [ Ke ] = t・A [ B ] T [ D ] [ B ]
が得られます ( t・A は要素の体積 ) 。
ここから先の手順は省略しますが、たびたび繰り返しているように、基本的な考え方は「その 2」にある線材のものと変わりません。

━━ここまで紹介してきたのは二次元平面要素のうちの 平面応力 と呼ばれる問題ですが、ここには別の考え方もあります。参考までに、そちらの方も簡単に紹介しておくことにします。
冒頭に書いたように、平面応力とは板に直交する方向の応力 σz を 0 としたものです。
しかし σz を 0 にしても、この方向のひずみ εz が 0 になるとは限りません。なぜならここには、σxσy による
  εz = - ( σx + σy ) ( ν / E )
という関係があるからです。
これに対し、その εz の方を 0 にするという考え方があって、こちらは 平面ひずみ と呼ばれます。
これは「非常に長いものから一断面を切り出した」ような状態で、たとえば土木関連のトンネルの解析などに使われるらしいですが、建築方面で使われることはまずないでしょう。


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