では、どうしたらいいか?

前項の論旨は、

新耐震設計法の施行から 30 年の月日を経て、いまや保有水平耐力計算というシステムは「なんだかよく分からないもの」になってしまった

というものでした。
ところで、この「なんだかよく分からない」は、ややもすると「なんでもアリ」になり、そして構造設計者にとっては「とてもアリガタイもの」になったりもします。
どういうことかというと、もはや構造設計者は「壁量」とか「剛性率」とか「偏心率」とか、そういうもののために工夫したり汗をかいたりする必要がなくなった。ルート 3 を選択してものの数秒も待てば、プログラムがたちどころに「保有水平耐力比」の値を設計者に教えてくれるからです。
それはそれで結構なことかもしれません、もしその値が本当に建物の耐震性能を表わしているのならば。
しかしここまで書いてきたように、少なくとも私はそれについてかなり懐疑的です。
というわけで、最後に、「こういうのはどうですか」という提案を書きとめておくことにしましょう。

現行の耐震設計法の枠組みの中で「より高い耐震性能」を実現できる最も確実かつ簡便なな方法は「設計地震力を大きくする」ことです。これは間違いありません。剛性率や偏心率に関して多少の問題があっても、建物全体の耐力を上げれば被害を回避できるのですから、これは理に適っているはずです。
であるのならば、そういう設計手法――ルート 4 でも 2.5 でもいいですが――を正式に認めたらどうだろうか、というのが以下の提案になります。

経験的に考えて、3 階あるいは 4 階建以上の建物に対して現行の壁量規定を満足するように求めることはあまり現実的ではありません(建物の 1 階が「壁だらけ」になってしまう)。
しかし現状では、剛性率あるいは偏心率の上でまったく問題のない理想的な形状の建物であっても、壁量が足りなければただちに「ルート 3 」を選択せざるを得ないような仕組みになっています。注)

注)
正確にいうと「ルート 2-3 」という選択肢もあるが、これまた「よく分からないもの」で、そもそも審査機関から疑いの目を向けられるため、現在ではほとんど採用されることがない。

そしてそこから「保有水平耐力比」との悪戦苦闘が始まり、あげくの果てには壁という壁に全部スリットを入れて「変形能力に富んだ建物」にする、というのは最近よく見かける「設計の流儀」です。
たしかにそれで「経済設計」は実現されたかもしれませんが、ややもすると、「ルート 3 にしたために耐震性能が損なわれた」という結果をもたらしてはいないだろうか、というのが私が抱いている懸念で、それについてここまで書いてきました。
そこで推奨したいのが「ルート 3 を選択する代わりに――というよりも、ルート 3 を選択することを禁じて、その上で――設計地震力を割増す」という方法です。
このような計算手法が認められれば、それによって確実に耐震性能は向上し、さらに耐震等級が上がるので建物の資産価値も増大する――というふうに書いてくると、これはもう「いいことづくめ」のような気がするのですが、何か問題ありますか?

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( 文責 : 野家牧雄 )