知っておきたい振動解析 その 1

前回の「 Ai 分布の精算について」の中で、設計地震力とは ( 建物に一定の耐震性を保証するための ) 「大雑把な目安」であると書きました。なぜ「大雑把」で構わないのかというと、低中層の建物については多くの経験の集積があり、「この程度に設計しておけば地震に対して安全である」という「安心」が私たちの間で共有されているからです。
それに対し、いわゆる「超高層建築」と呼ばれるものについてはそのような経験の集積がない。そこで、大雑把な地震力ではなく、「地震が来た時に建物がどのように揺れるのか」という「本当のこと」を知って安心を得ようとした。それが「振動解析 ( = 時刻歴応答解析 ) 」という設計手法だと考えられます。

ずいぶん昔の話ですが、「建築構造関連の仕事をしている」と人に言うと、「超高層のようなものを設計するのか」と聞かれることがよくありました。ようするに、これは「建築構造の専門家 → ふつうの建築家には設計できないような建物 → 超高層」という連想です。
昔に比べれば「超高層」という言葉が社会に与えるインパクトもだいぶ薄れてきましたが、それでも、この言葉が一般の人に「建築構造」というものを意識させる格好のトピックになるという事情は今でも変わらないような気がします。

その一方、では超高層の設計に携わったことのある構造設計者の比率は全体でどれくらいになるのかと考えてみると、 ( たんなる憶測ですが ) 多目に見積もっても 5 人に 1 人くらいではないでしょうか ?
つまり、それ以外の大部分の構造設計者にとって、振動解析とは「縁がないもの」「知っていても仕事の役に立たないもの」なのです。
それで別に困ってないのだからいいではないか、と言われればその通りですが、しかしそうは言っても、私たちの周りでは「建築構造 = 耐震設計」というふうに思われているフシもある。そして構造設計者はその専門家なのですから、振動解析に関する一通りの知識を持ってないと、思わぬところで思わぬ恥をかくことだって無いとは言えないでしょう。
この「知っておきたい振動解析」は、そのような時のための「転ばぬ先の杖」と思って読んでいただければ幸いです ( 逆に言うと、「それ以上のものではない」ということでもあるのですが ) 。
――まずは「振動解析の基本用語」というところから始めましょう。

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( 文責 : 野家牧雄 )