何をいまさら構造力学 目次

1. 断面2次モーメントと曲げ剛性
2. 曲げモーメントと曲げ変形
3. 剪断力と剪断変形
4. 座屈
5. 横座屈

ポアソン比と剪断変形

ゴム製の細長い板のようなものを両手で横に引っ張ると、引っ張った方向に「伸び」が生じます。この時に「どれくらい伸びたか」を「ひずみ」という値――伸びの長さを元の長さで割った無次元量――であらわすのは先に述べた通りです。
ところで、この板は引っ張られた方向に「伸び」が生じると同時に、それと直交する方向に何らかの「縮み」が生じます。これは直感的に理解できるはずですが、この時の「縮み方向のひずみ」を「伸び方向のひずみ」で割ったものを ポアソン比 と呼び、一般に ν ( ニュー ) という記号であらわします。

この様子を示したのが下図の左で、ここには ν の算定式も併せて載せておきました ( 式の右辺が絶対値になっているのは、「伸び」と「縮み」のひずみ量は正負符号が反対になるので、ポアソン比を正の値にするためのもの ) 。また図の右にあるように、この関係は「物体を押し込んだ時に直交方向に伸びが生じる」というケースでも同様に成り立ちます。
この値は材料によって決まりますが、鉄で約 0.3、コンクリートでは約 0.2 とされています。 注 )
  

注 )
この図ではあらわれていませんが、引っ張られた ( 押し込まれた ) 物体の「厚み」もポアソン比に応じて変化します。つまりポアソン比とは力を加えられた物体の体積の変化の度合いを表わすもので、体積変化の度合いが小さい ( 可塑性が高い ) ものほどポアソン比が大きくなります。
ここで、「力を加えた前後で体積がまったく変わらない」という仮定――非常に可塑性の高い、たとえば水のようなもの――を立てて計算してみるとポアソン比は約 0.5 になる。これがポアソン比の最大値です。

どうしてこんな話を始めたのかというと、このポアソン比という値が「剪断力と剪断変形」を考える上で重要になるからです。
下にあるのが剪断応力度 τ剪断ひずみ γ の関係式です。
  τ = γ ・ G
これが引張 ( 圧縮 ) 応力度とひずみの関係をあらわすフックの法則 の式 ( σ = ε・E ) を模したものであることは明らかでしょう。ここにある G剪断弾性係数と呼ばれ、ヤング係数 E と同じ「力 / 面積」の次元をもちます。そして当然ながら、τσ と同じ「応力度」なので、となるとこの γε ( = 長さ / 長さ ) と同様の無次元量でなければなりません。
下図の左にある通り、剪断ひずみ γ とは剪断変形によってもたらされた要素の「傾き」をあらわすものです。
だからこれは「角度」であると言ってもいいのですが、これまで再三登場した「角度 θ ( rad ) が微小であれば、それは tan θ に等しい」という原則に照らせば、これを tan γ という無次元量と見なすこともできるわけです。
  
ここで前回の話を思い出してください。

純剪断の状態は、45 度方向 ( 主応力方向 ) の引張応力と -45 度方向の圧縮応力に置き換えて考えることができる ( そしてその大きさは剪断応力度に等しい )

のですが、これが上図の右にある青色の矢印です。
この図の正方形要素の対角線に注目してみます。右上がりの対角線は「引っ張られ」、左上がりの対角線は「押し込まれ」ている。しかしそのひずみ度の絶対値は同じはずなので、ここでは右上がりの対角線の方を取り出して考えることにします。

下図のように、この対角線の伸び量は引張力 σ1 による 儉1 と、直交方向の圧縮力 σ2 によって生じる 儉2 を加算したものになりますが、これらの値は「ヤング係数」と「ポアソン比」が分かれば計算できます。
結局、この二つの値があれば「どれくらい剪断変形するか」が分かるのです。そして剪断弾性係数 G はこの二つの値をパラメータとしてあらわすことができるのですが、このあたりを含めて下に図示しました。 注 )
  

注 )
ここにある θ は実際には π / 4 - γ / 2 という値をとります。これを θ = π / 4 ( 45度 ) とする仮定は、上の図を見るといかにも理不尽な気がするかもしれませんが、しかしこれは説明の都合を考えてデフォルメして描いたものです。あくまでも γ の値は「微小」なのです。


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