3. 一番簡単な変位法

 フックの法則

節点変位がさだまるのは、それが変位しようとする時に部材が抵抗するためです。すでにいったとおり、この「節点変位」という値はあくまでも仮想されたものですから、ここで実際にあるのは「変形を受けた部材がそれに抵抗している」という状態です。
この「変形にたいして抵抗する」とは、少し言い方を変えれば「変形にたいする反発力が部材内に存在している」ということですが、このことを、下図にあるような簡単な例で確認してみます。


地上に固定された伸縮する杭(部材)の頂部に何らかの力 P が作用しています。これは節点に外部から作用する力なので外力と呼びます。
これによって節点は力の作用方向に変位します。この変位にたいして部材が抵抗するわけですが、最終的には、部材の反発力(上図 N )が外力 P と釣り合うところまで動いて静止します。(いうまでもなく、力学上では「静止している」と「力が釣り合っている」は同義です。)
この時の変位 δ が節点変位であり、この時に部材内に生じている反発力 N が内力です。注)

注)
これを「応力」と呼ぶことがあり、現在でも慣用的にそのように呼ばれることが多いようです(たとえば「地震荷重時応力図」など)が、しかし「応力」の正式な定義は「単位面積あたりの力」で、現在使われている「応力度」と同義です。
したがって本コラムでは、用法があいまいな「応力」という用語は使わず、できるだけ「内力」および「応力度」という用語を使うことにします。(ちなみに、2000年6月に施行された改正建築基準法では、旧来の条文にあった「応力」という用語が「生ずる力」に改められています。)

この図から明らかなとおり、節点変位にかんする抵抗力(節点の剛性)は、ここでは「部材の伸び縮みにかんする抵抗力」によってあらわされます。そして、この「部材の伸び縮みにかんする抵抗力」はどのようにあらわされるのかというと、「応力度とひずみの関係」として定式化されています。
これが有名な「フックの法則」で、下のようなものです。

σ = E・ε

σ は「応力度」で、「部材の単位面積あたりの内力」つまり「内力を部材の単位面積で割ったもの」です。
ε は「ひずみ」または「ひずみ度」と呼ばれるもので、「部材がもとの形からどの程度変形したか」をあらわす無次元量です。たとえば下図にあるように、部材のもとの長さが L で、それがなんらかの力により 儉 だけ伸び縮みしたとするならば、その時の ε は 儉 / L になります。


E は部材の材質によってきまる比例定数で、一般に「ヤング係数」と呼ばれます。

 一番簡単な変位法

フックの法則は、「部材のひずみが大きくなれば、それに比例して部材の反発力(内力)も大きくなる」ということをいっているわけですが、ここで、部材の内力を N ・ 断面積を A としてさきほどの式を書き直すと下のようになります。


これらのうち、断面積 A・ヤング係数 E・部材長 L は変動しない値で、変動するのは内力 N と変形量 儉 の二つですので、上の式をこれら二つの関係として下のようにあらわしてみます。


これは部材に生じる力 ( N ) と変形量 ( 儉 ) の関係ですので、これらを関係づけている E・A / L という比例定数は「部材の剛性」に相当します。
ところで、私たちが今必要としているのは「節点の剛性」のほうで、これは変位法の基本式 P = K・δ であらわされます。
ここでもう一度冒頭の図に戻ってください。ここにあるとおり、内力 N と外力 P がつりあい、さらに部材の変形量 儉 はそのまま節点変位 δ になるのだったら、上の式(2)はそのまま「外力 P」と「節点変位 δ」の関係になっていいはずです。つまりこの場合、部材の剛性と節点の剛性はひとしくなり、変位法の基本式は


となります。
このようにして節点変位に関する剛性 K が分かったのですから、あとは簡単で、δ = P / K で節点変位がもとまります。これを上の式(3)にしたがってもとめれば、 δ = P・L / E・A です。これで変位法の実質的な計算(つまり「節点変位をもとめる」)は終わりです。

節点変位が分かったので、ついでに部材に生じている内力ももとめておきます。節点変位 δ は既知であり、これは部材の変形量にひとしいのですから、式(2)の 儉 に δ を代入すればいいことになり、


つまり N = P である、ということが分かります。

「なんだ、そんなこと最初から分かっていたではないか」と思われるかもしれません。たしかにそのとおりですが、しかし「最初から分かっていた」のは、ここで取り上げた例題が、たまたま、力の釣り合いだけからもとまる単純なものだったからです。
これに対し、変位法の側はもちろん、「最初から分かっている」とは考えません。いついかなる場合でも、上のような手順を踏んで律儀に解にたどりつこうとします。そしてそれはなぜかというと、「最初から分かっていようがいまいが、どんな場合でもこのやり方が通用する」からです。

ここまで学んだ変位法の解析手順を以下のように整理しておきます。

1.

部材の内力と変形の関係から部材の剛性をもとめる。

2.

部材の剛性をもとに節点の剛性 K をもとめる。

3.

節点の剛性 K が分かれば、δ = P / K から節点変位 δ がもとまる( P は外力)。

4.

節点変位 δ が分かれば部材の変形量が分かるので、これをさきほどの内力と変形の関係に代入すれば内力がもとまる。

4. もう少し複雑な変位法