主な変更点

以下に、今後の構造設計に直接関係してくると思われる目ぼしい変更点だけを列挙しておきます。
なお、ここでは基本的に「このように変わった」という事実のみを述べています。「なぜそのように変わったのか」を知りたい方は規準にある解説文を読んでください。


6条 許容応力度
「コンクリートの許容応力度」の表で、1999 年版では長期せん断に関する式が「 0.5 + Fc / 100 」となっていたが、これを「 0.49 + Fc / 100 」に改めている。これは、1999 年版の刊行後に出された告示にある数値との整合を図ったもの。
同様に告示との整合を図るべく、「鉄筋の長期許容応力度」にあった数値を、たとえば「 200 → 195 」「 220 → 215 」のように改めている。注) また、SD490 の欄が新設されている。

注)
200 と 195 の違いは SI 単位に換算する際の数値 ( = 295 / 1.5 ) の「丸め方」の違いによるものでした。が、それにしても、「なぜ数字を丸める必要があるのか」という点については多少疑問を感じます。
鋼構造の方は「 F / 1.5 」となっているのですから、それなら「 295 / 1.5 」でいいのではないでしょうか? (ちなみに、日本建築学会「壁式鉄筋コンクリート造計算規準・同解説 2003 」ではそうなっている)

「鉄筋のコンクリートに対する許容付着応力度」の表が全面的に差し替えられている。その内容は、1988 年版にあった表を SI 単位に直したもの。これは、付着に対する考え方が 1999 年版からさらに変更され、一部については 1988 年版の考え方が復活しているため。


13条 梁の曲げに対する断面算定
14条 柱の曲げに対する断面算定
冒頭に、前述の限界状態と設計用の応力を関連づけた以下のような記述が追加されている。
「使用性確保のための長期曲げモーメントは、その部材に長期荷重が作用した場合の最大曲げモーメントとする。」
「損傷制御のための短期曲げモーメントは、その部材に短期荷重が作用した場合の最大曲げモーメントとする。」


15条 梁・柱および柱梁接合部のせん断に対する断面算定
2. 梁・柱のせん断補強


長期荷重時せん断力に対する使用性確保のための検討
従来は、梁についてはスタラップ筋を考慮した式(ひび割れを許容したもの)、柱についてはフープ筋を無視した式(ひび割れを許容しないもの)という使い分けがされていたが、梁については、スタラップ筋を無視した式と考慮した式の二本立てになった。
スタラップ筋・フープ筋を無視した式は、従来の柱の長期許容せん断力の算定式とされてきた

   QAL = b・j・α・fs  (各記号の意味については従来どおりなので省略)

だが、柱のαについては、1 ≦ α ≦ 1.5 となっていることに注意(梁の方は 1 ≦ α ≦ 2 )。
梁のスタラップ筋を考慮した許容せん断力は従来通り

   QAL = b・j・ { α・fs + 0.5 wft ( pw - 0.002 ) }

だが、この時の pw の最大値が 0.6% に変更されていることに注意(従来は 1.2% )。

短期荷重時せん断力に対する損傷制御のための検討
従来行っていた短期荷重時のせん断力に対する検討のうち、「地震荷重時」に関するものについては次項の「大地震動に対する安全性確保のための検討」に移されている。
したがって、この項は実質的には新設されたもので、これは、

  1. 地震以外の短期荷重
  2. 「大地震動に対する安全性確保のための検討」を行わない場合の地震荷重

に対して適用されると考えておけばよい。
なお、上記の「大地震動に対する安全性確保のための検討を行わない場合」とは、具体的にいうと、「保有水平耐力計算その他の手法によって終局時の状態に対する安全性を別途検討している場合」のこと。
つまり分かりやすく言うと、設計ルート 3 の場合はここにある式を使い、その他のルートの場合は次項の「安全性確保のための検討」をすることになる。注)

注)
これまでは、終局時の状態に対する安全性を別途検討しているにも関わらず、一次設計時に略算的なメカニズムを求めたり設計せん断力を割り増すという「二重の検定」がしばしば行われてきたが、今回の規準ではそのあたりの矛盾が解消されている。

許容せん断力は、柱・梁ともに

   QAL = b・j・ { ( 2 / 3 ) α・fs + 0.5 wft ( pw - 0.002 ) }

で算定される。
従来の式では、柱についてはαの項がなかったが、ここでは入っている(ただし 1.5 以下)こと、およびαを 2/3 倍に低減していることに注意(つまりαが 1.5 を下回る場合は実質的に fs を低減することになる)。
また前述の通り、長期荷重時の pw は最大 0.6% だが、短期荷重時については従来通り 1.2% になっている。

大地震時に対する安全性確保のための検討
従来行っていた地震荷重時のせん断力に対する検討がここに移されている。
ただし前述の通り、保有水平耐力計算その他によって大地震時の検討を別途行っている場合は、これによらず、前述の「損傷制御のための検討」によることができる。
ここにある許容せん断力の算定式は従来のものと同じだが、参考までに下に記しておく。

   梁の場合  QAL = b・j・ { α・fs + 0.5 wft ( pw - 0.002 ) }
   柱の場合  QAL = b・j・ { fs + 0.5 wft ( pw - 0.002 ) }

なお、この場合の pw の最大値は 1.2% である。
また、設計用せん断力のとり方については、従来通り、「メカニズム時のせん断力とするが、ただし、地震時のせん断力を 1.5 倍以上に割り増した場合はそれでも可」となっている。

3. 柱梁接合部
従来の内容と変わらないが、これが「大地震動に対する安全性確保」のための検討であること、そして終局時の検討を別途行っている場合は省略できることが明記されている。


16条 付着および重ね継手
1. 付着

1988 年版にあった長期および短期の付着の検討が、それぞれ「長期荷重に対する使用性確保のための検討」および「短期荷重に対する損傷制御のための検討」という形で「復活」している。
1999 年版にあった必要付着長さの検定は、「大地震動に対する安全性確保のための検討」として取り上げられている。ただし、曲げ降伏時に付着割裂破壊しないことを確認しているのであれば、この検討は省略できる。
なお、いずれの場合も、検定は「付着応力度が許容付着応力度よりも小さいことを確認する」という形式で行われる。


19条 壁部材の算定
19 条は旧規準では「耐震壁」となっていたが、上記のように変更されている。これは、いわゆる耐震壁だけでなく、「そで壁付きの柱」「腰壁・垂れ壁付きの柱」等に関するものもここに含んでいるため。
なお、この部分は旧規準からかなり大幅に変更されており、その全貌をここで紹介するのは到底無理なので、以下はごく概括的な内容にとどめている。

1. 一般事項
ここで取り扱っている壁部材を以下のように分類している。
  a. 旧規準にある、いわゆる耐震壁(ただし下図のように、柱に付くそで壁も含める)
  b. そで壁の付いた柱
  c. 柱のない壁板だけのもの
  d. 腰壁・垂れ壁の付いた梁



ただし、そで壁の付いた柱、および腰壁・垂れ壁の付いた梁については、従来通り、壁板を無視して断面計算してもよいとされている。

2. 許容せん断力
使用性の検討に用いられる長期の許容せん断力は、コンクリートの許容せん断応力度に基づいた(ひび割れを許容しない)式になっている。
損傷制御、および大地震に対する安全性の検討に用いられる短期の許容せん断力は、従来通り、コンクリートの許容せん断応力度に基づいた(ひび割れを許容しない)式と、せん断補強筋の許容引張応力度に基づいた(ひび割れを許容した)式から求められる「いずれか大きい方の値」とされている。
この時の設計せん断力の取り方は柱・梁の場合と同じ。つまり、損傷制御の場合は短期の応力、安全性の検討の場合はメカニズム時のものか短期の応力を割り増したものを用いる。

4. 開口による低減
従来の開口低減率は、開口の幅による r1 と、開口の面積による r2 の 2 つだったが、ここに開口の高さによる r3 という値が追加されている(2007年の告示にある値)。
ただし r1 と r2 の算定に使われる「壁のスパン」は、従来は「柱芯間の距離」になっていたが、今回は「柱断面を含めた壁全体の断面長さ」となっている(さきほどの図の L に相当)。また、この値を使うと壁のスパンが従来よりも大きくなり、低減率を小さく評価することになるため、その不整合を避けるべく、開口の幅あるいは開口周比の値を 1.1 倍するようになっている。
上記の r3 の値については、「ピロティの直上階」「中間階の単層壁」「開口が上下に連続する場合」等のそれぞれについて算定方法が提案されている。
また、複数の開口がある場合に、それを「等価な 1 開口」と見なして r1 と r2 を算定する方法が提案されている。

5. 開口補強
従来の規準では、いわゆる「開口補強筋」によって開口周囲の付加的な応力に抵抗する仕組みになっていたが、今回の規準では、これに「開口から 500mm の範囲内にある壁筋」「開口に接する柱・梁の主筋」の耐力も算入してよいことになった。

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