震度 7 について考える

今年の初めに、東京大学地震研究所が「マグニチュード 7 級の首都直下型地震が起きる確率が 4 年以内に 70% 」という試算を公表しました。
そして 3 月になると国の命を受けたプロジェクトチームが「首都直下型地震によって一部の地域で震度 7 になる可能性がある」ことを明らかにし、さらに引き続いて、首都圏ばかりでなく、南海トラフ地震によって多くの地域が震度 7 に見舞われる可能性があることが明らかになりました。
これらを受け、「震度 7」というキーワードが新聞やテレビでさかんに取り上げられ、現在にいたるまでセンセーショナルな話題になっているのはご存知の通りです。
しかしその一方、建築構造の専門家の間で「震度 7 にどう対処するか」という話題が真剣に取り上げられたという事実は ( 私が知る限り ) ありません。

すでに 10 年ほど前のことですが、「東海地震によって震度 7 に見舞われる可能性がある」とされた静岡県では、基準法が定める値の一律 1.2 倍の地震力で設計することを定めて「静岡県の安全性」を全国にアピールしました。しかし今回、震度 7 の可能性を指摘された都府県は 10 にのぼる――ちなみに、ここには基準法で「地震地域係数 0.9 」と定められた地域も一部含まれている――ものの、静岡県と同様の対処をとろうとする動きはいまのところないようです。

つまり設計者にしても行政の側にしても、「現行の基準法にしたがって設計しておけば震度 7 に対しておおむね安全」という立場をとっていることになります。
それはそれで一つの見識であり、間違ってはいないと思うのですが、しかしもちろん、何の留保もなく「安全である」というわけにはいかないでしょう。なにしろ個々の建物がおかれている状況はそれこそ千差万別で、しかもそこに地震という「人間には制御できないもの」が襲ってくるのですから。

震度階とは何なのか?

そもそも、地震の揺れの大きさをあらわす国際的な基準はありません。私たちが震度 6 とか 7 とかいっているのは、気象庁が定める「震度階」あるいは「震度階級」と呼ばれる日本独自の区分にしたがったものです。
以下、主として「ウィキペディア」から得た知識に頼りながら、この仕組みについておさらいしておくことにしましょう。

現在の震度階の原形になるもの――といっても、公的な性格をもつものではないみたいですが――が作られたのは 1908 年のことで、この時は震度 0 から 6 までの 7 段階になっていたらしい。つまり震度 6 というのが「考え得る最大級の地震」だったわけですが、これは言葉をかえると、「ほとんど想像を絶した規模の地震」ということになるでしょう。
しかしその後、その「想像を絶した地震」が起きてしまいました。1948 年の福井地震です。
この時の家屋の倒壊率はなんと 90% を超たそうです。そこで、家屋の倒壊率が 50% のものも 90% のものも同じ「震度 6」ではおかしいだろう、ということになり、1949 年に「震度 7」がという階級が設けられました。

ただし、ここでいう震度階とは主として「体感」に頼ったもので、たとえば震度 3 とは「戸障子が鳴動する」、震度 4 とは「歩いている人にも感じられる」というような類のものです。
しかし震度 6 とか 7 になると「体感」というわけにもいきません。そこで、家屋の倒壊率が 30% 以下のものを震度 6 ( 烈震 )、それを超えるものを震度 7 ( 激震 ) と呼ぶことにしました。
この区分けからすると、先の福井地震は震度 7 のはずですが、しかしその当時震度 7 という階級は存在していなかったので、これは震度 6 ということになっています。
つまり、震度階というのは地震の揺れをあらわす「絶対的な指標」ではなく、時代とともに変わる「相対的な指標」なのです。このことはおぼえておいた方がいいと思います。

初めて震度 7 が適用されたのは 1995 年の兵庫県南部地震 ( 阪神淡路大震災 ) ですが、それにしても、「家屋の倒壊率」を地震の規模の判定基準にするのは何かと不都合があります。なぜならば、それは「地震が起きた後」に調べてみて初めて分かることだからです。
阪神淡路大震災の時がまさにそうでした。地震が起きてしばらくしてから「じつは震度 7 だった」と発表されたのです。
これでは地震に対する即応性、あるいは防災という観点からも非常にまずかろう、というのは誰しもが考えるところです。
そこで 1996 年に「計測震度」という考え方が導入されました。
これは震度計で得られた数値――加速度や周期、あるいはその継続時間――を所定の計算式に代入することにより震度を「計算する」ものですが、これ以降、地震が起きた直後にテレビをつけると、ただちに「震度××」と報道されるようになったわけです ( なおこの時、震度 5 と 6 の中にさらに「強」「弱」という区分が設けられ、現在の私たちが使っている 10 段階の震度階になりました )。

計測震度の時代になってからは、2004 年の新潟県中越地震、及び 2012 年の東北地方太平洋沖地震 ( 東日本大震災 ) 時に宮城県北部の栗原市で震度 7 が観測されています。
参考までに、計測震度の値と震度階の値の対応表を下に掲げておきましょう。

震度 0 1 2 3 4 5弱 5強 6弱 6強 7
計測震度 0.0 -
0.4
0.5 -
1.4
1.5 -
2.4
2.5 -
3.4
3.5 -
4.4
4.5 -
4.9
5.0 -
5.4
5.5 -
5.9
6.0 -
6.4
6.5
以上

 | 1 | 2 | 3 | 4 | 次へ