続・建築基準法はどう変わったのか

前回のコラム 建築基準法はどう変わったのか で述べたように、改正建築基準法にある「大臣が定めた構造計算の方法」の中身については、今後続々と公布されるであろう告示類(その原案は国土交通省のウェブサイトで公開中)の中で明らかにされるはずですが、それに先立ち、3 月 16 日に新しい建築基準法施行令が公布されました。
一般に、建築関連の法律は「基準法 → 基準法施行令 → 告示」という順で下流に下っていき、それにつれて内容がより具体的になります。
とすると、今回の新しい基準法施行令というのは、改正基準法から各種告示類への「橋渡し」をするもの、あるいは今後公開される告示類の「大枠」を与えるもの、と考えておけばよいのでしょうか? よくは分かりませんが、たぶん、そんなところです。

ここでは、新しい施行令のうち、とくに構造計算に関連する部分だけをとり上げて紹介することにしますが、と言っても、ここで構造計算の新しいやり方が提示されているとか、そういうことではありません。ですから、以下に述べることは、一般の建築技術者にとって「実務上はほとんど関係のないこと」です。
しかし、「ぜんぜん関係のないこと」なのかというと、一概にそうとも言えません。これを知っておかないと、今後公開される告示類を目にした時に「何のことか?」と首をかしげる場面が出てくるはずなのです。

・・・とかなんとか、もったいぶった前置きをつけましたが、ことはいたって単純です。
ようするに、今回の改正内容は、

「許容応力度等計算」という用語の定義が変わった

という、その一点につきるのです。

先に「ほとんど関係ないかもしれない」と言った理由は、そもそも「許容応力度等計算」という言葉自体がある種の「法律用語」で、技術者が日常的に口にする言葉ではないからです。そして、「まったく関係がないわけでもない」と言ったのは、これから公示される告示類には、当然ながら、この用語が頻発するはずだからです。


構造計算に関わる変更は、すべて「第 8 節 構造計算」にある第 81 条・ 82 条に集約されています。
この主文となる第 81 条(第 1 款 総則)はもともとどうなっていたかというと、構造計算の方法には以下の二つがある、と書いてありました。

1. 許容応力度等計算
2. 限界耐力計算

これが今回、次のような「三本立て」に変わったのです。注)

1. 保有水平耐力計算
2. 限界耐力計算
3. 許容応力度等計算

注)
なお、ここには「ただし書き」があって、「これらと同等であると大臣が認めた方法がある場合はそれでもよい」と書かれています。この「ただし書き」を根拠にして「エネルギー法」という新しい設計法が 2005 年に登場したのはすでにご存知のとおりです。
それならば、今回の改正で、ここに「4. エネルギー法」を掲げておくのがスジではないか、という気がするのですが、なぜか、ここにはありません。施行令のどこを探しても「エネルギー法」という言葉は見当たらず、相変わらず「ただし書き」のままです。

そして、「許容応力度等計算は高さが 31m を超える建物に適用してはならない」となっています。

ところで、これまでの「許容応力度等計算」という用語が何を指していたのかと言うと、

許容応力度等計算 = いわゆる許容応力度計算 + 場合によっては行う保有水平耐力の計算

です。だから途中に「等」の字があったのです(と私は理解していました)。
しかし、今度は違います。「許容応力度等計算」とは、上に「いわゆる許容応力度計算」と書いた、その部分だけを指すのです。
それに対し、「保有水平耐力計算」とは何かと言うと、この用語は下のように定義されました。

保有水平耐力計算 = いわゆる許容応力度計算 + 必ず行う保有水平耐力の計算

上の「いわゆる許容応力度計算」が、今回定義し直された「許容応力度等計算」になるわけですから、これは

保有水平耐力計算 = 許容応力度等計算 + 必ず行う保有水平耐力の計算

と書くこともできます。
つまり、「許容応力度等計算」とは「保有水平耐力計算」の一部である ということ、言い方を変えれば 「許容応力度等計算」とは「保有水平耐力計算」のうちの「いわゆる保有水平耐力の計算」を省略したものである ということです。注)

注)
それなら、「許容応力度等計算」の途中にある「等」の字はとってもいいのではないか、という気がしますが、とれてません。おそらく、ここには、たとえば層間変形角とか剛性率・偏心率とか、純粋な許容応力度計算とは言えない内容が含まれているので残っているのでしょうが、法律用語とはいえ、この言葉は語感が悪くてどうも気になります(私だけかもしれませんが)。

このことを端的にあらわすのが、「第 1 款 総則」の後につづく「第 1 款の 2」の表題です。これはもともと「許容応力度等計算」だったのが、そっくりそのまま「保有水平耐力計算」に変わりました。
結果として、この「第 1 款の 2 保有水平耐力計算」のカテゴリー内に第 82 条も含まれることになりました。この第 82 条とは何かと言うと、「建物は、常時荷重の他、地震や風・雪に対して安全に設計しなければならない」ということが書かれています。
しかし、ここで「あれ?」というふうに思うはずです。

今までの私たちの常識では、「保有水平耐力計算」というのは、あくまでも「地震に対する建物の安全性を確認するもの」でした。ですから、保有水平耐力計算の一部に常時荷重や風荷重・積雪荷重に対する計算が含まれる、と考えるのはどうもスッキリしないのです。
しかし、そういうことになったのです。今後は「そういうものである」と考えて頭を切り替えるしかありません。

さらに、これに伴い、「第 1 款の 3 許容応力度等計算」が新設されているのですが、これらをまとめて「第 8 節 構造計算」の新旧対照表を作ってみると以下のようになります。注)

第 1 款 総則 (第 81 条)
第 1 款の 1 許容応力度等計算
  第 82 条 (許容応力度等計算)
  第 82 条の 2 (層間変形角)
  第 82 条の 3 (剛性率・偏心率)
  第 82 条の 4 (保有水平耐力)
  第 82 条の 5 (屋根ふき材等の構造計算)

第 1 款 総則 (第 81 条) 内容変更
第 1 款の 1 保有水平耐力計算  名称変更
  第 82 条 (保有水平耐力計算) 名称変更
  第 82 条の 2 (層間変形角) ほとんど変更なし
  第 82 条の 3 (保有水平耐力) ほとんど変更なし
  第 82 条の 4 (屋根ふき材等の構造計算) 変更なし

第 1 款の 2 限界耐力計算
  第 82 条の 6 (限界耐力計算)

第 1 款の 2 限界耐力計算
  第 82 条の 5 (限界耐力計算) ほとんど変更なし

 

第 1 款の 3 許容応力度等計算 新設
  第 82 条の 6 (剛性率・偏心率) 旧 82 条の 3

注)
新しい建築基準法施行令の原文については、弊社製品「構造計算入門 第二版」の「新着情報」でその一部を紹介しています(これは宣伝)。

ここにあるとおり、従来は「第 1 款の 1 許容応力度等計算」に剛性率と偏心率に関する規定(第 82 条の 3 )があったのですが、これが「保有水平耐力計算」と改名されたことにより、この規定は「第 1 款の 3 許容応力度等計算」の方に移っています(第 82 条の 6 )。層間変形角の規定(第 82 条の 2 )はそのままです。
そして「第 1 款の 3 許容応力度等計算」の冒頭には、

これ(許容応力度等計算)は「第 1 款の 1 保有水平耐力計算」のうちの「いわゆる保有水平耐力の計算」に関わるもの(第 82 条の 3 )以外を適用するものである

という主旨の内容が書かれています。
つまり先ほど言ったとおり、「許容応力度等計算は保有水平耐力計算の一部」になるのですが、さらに手っ取り早く言ってしまえば、「第 1 款の 1 保有水平耐力計算」は「計算ルート 3 」のことで、「第 1 款の 3 許容応力度等計算」は「計算ルート 2 」のことなのです。注)

注)
では、「計算ルート 1 」は何と言うのか?
強いていえば、「許容応力度等計算」の「等」の字を除いた「許容応力度計算」です。しかし、そういう用語は法令のどこにもありませんので、正解は「とくに決まった呼び方はない」です。

・・・と、ここまで書いてくると、「では、なぜ今回、そのような改正がなされたのか」という理由を最後に説明しなければならないような気がしてくるのですが、もちろん、それは分かりません。そのうち誰かが説明してくれると思いますよ、きっと。

(終わり)