建築基準法はどう変わったのか

すでにご存知のとおり、2006 年 6 月 21 日に建築基準法が改正され、「一年以内に施行される」となっていますので、おそらく、今年(2007 年)の 6 月 20 日頃から実際に運用が開始されるはずです。

これに関連し、私たちの会社あてにも種々のお問い合わせをいただくことが多くなり、中には、「6 月になると現在のソフトはすべて使用禁止になるのか」というお電話をいただいたこともありました。もちろん、そんなことはないのですけれど、たしかに、建築基準法の改正によって確認申請制度が大きく変わることについては知られていても、それによって構造計算プログラムをとりまく状況がどのように変わるのかについてはほとんど知られていません。
というか、現時点(2007 年 2 月)では、建築基準法の本文が公表されているだけで、その周辺の細則(施行令・告示等)が何もないのですから、知らなくて当然かもしれません。

そこで、私たちが知りえている範囲内で、「今年の 6 月から何がどう変わるのか」の概略についてそろそろお伝えしておいた方がいいのではないか、という意図のもとに書き出されたのが本コラムです。
と言っても、私たちは構造計算プログラムの一メーカーという立場であり、制度の策定に直接関与しているわけではありませんから、得られる情報も限られています。現時点で公けにされているのは基準法本文だけですから、本コラムの内容も基準法本文の解釈を中心に展開することになりますが、現時点で私たちが知りえている情報のうち、とくに確度の高いと思われるものについては、それらを随所に交えながら話を進めていきたいと考えています。

そんなわけですから、すべてがここに書かれている通りになるとは限りませんし、また、私たちの側に何の誤解もないとは言い切れません(もし違っている部分が判明すれば随時お知らせして修正するつもりですが)。
しかし、私たちの理解は、その「大筋」においては間違っていないものと考えていますので、以下、その「大筋」をご紹介することにします。


基準法の改正の概要

2006 年 6 月 21 日付けの官報によれば、建築基準法の改正内容は以下の三点に要約されています。

1. 建築確認の厳格化
2. 指定検査機関に対する監督の強化
3. 罰則の強化

これらの大まかな内容についてはすでにご存知のことと思いますし、たとえば「適合性判定機関」という新名称は、一般の新聞でも時々とり上げられています。ですから、ここでの話題は、もっぱら、私たち(構造計算プログラムメーカー)にとっての最大の関心時である「1. 建築確認の厳格化」、とくにその中でも「構造計算プログラム」周辺の話題に限ることにします。

さて、最も衝撃的なのは、この改正された基準法の中に 「プログラム」という言葉が初めて登場した という事実です。それはまず、第 2 条「用語の定義」に登場します。

注)
以下、基準法の本文をたびたび引用しますが、その中で、とくに強調しておきたい語句(たとえば「プログラム」など)は太字で表示することにします。もちろん、基準法本文にそのような文字装飾が使われているわけではありません。念のため。

プログラム
電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。

建築構造技術者にとって、仕事にプログラムを使う、というのは今ではごくアタリマエのことですが、これがいつ頃からアタリマエになったかというと、おそらく二十数年前からで、言うまでもなく「パソコンの急速な普及」という現象と同期しています。
建築基準法に「プログラム」という言葉が登場した背景には、明らかにそのような状況があります。つまり、これは、基準法が 構造計算ツールとしてのコンピュータプログラムの存在を追認した ものと考えおいていいでしょう。

先に述べた「用語の定義」の次に「プログラム」があらわれるのは第 6 条「建築物の建築に関する申請及び確認」です。この第 5 項に「構造計算適合性判定」という言葉の定義があり、以下のようになっています。

第 20 条第 2 号イ 又は第 3 号イ の構造計算が同条第 2 号イ に規定する方法 若しくはプログラム 又は 同条第 3 号イ に規定するプログラム により適正に行われたものであるかどうかの判定をいう。

この第 20 条には、ようするに「建築物は種々の外力に対して安全でなければならない」ということが書かれており、第 2 号とか第 3 号とかいうのは建築物の規模に応じた区分をあらわしています(第 2 号は「計算ルート 2 または 3」に該当する「やや大規模な建物」、第 3 号は「計算ルート 1」に該当する「中規模以下の建物」ということになりますが、詳細は 後述 します)。

上の文章から何が分かるかというと、構造計算の方法には以下の三つがある、ということが分かります。

1. 第 20 条第 2 号イ に規定する方法
2. プログラム
3. 第 20 条第 3 号イ に規定するプログラム

まず 1 ですが、「第 20 条第 2 号イ」には、構造計算の方法として「国土交通省大臣が定めた方法によるもの又は国土交通省大臣の認定を受けたプログラムによるもの」があるとされています。
3 の「第 20 条第 3 号イ」もまったく同様ですが、ただし、ここでは「・・・に規定するプログラム」とありますから、3 は「大臣の認定を受けたプログラム」を指していると考えておいていいでしょう。

問題は「国土交通省大臣が定めた方法」ですが、基準法本文にこのように書かれている場合、その後に具体的な内容をさだめた施行令なり告示なりが公布される、というのがこれまでの一般的な慣例になっています。ですから、その細則(設計法の大改革があるという話は聞いていませんので、基本的には現行の設計法に沿ったものになるはずですが)については現時点では分かりませんが、はっきりしているのは、ここでいう「方法」とは、構造計算にもちいるツール(道具)のことではない、ということです。この「方法」とは構造計算のプロセス(手続き)のことなのです。

でも、だとしたら、なんか変です。
さきほど、新しい基準法は「構造計算ツールとしてのプログラムの存在を追認した」といったばかりですが、しかしここでは、「国土交通省大臣が定めた方法(構造計算のプロセス)」と「認定プログラム」が並置されています。ということは、認定プログラムは「構造計算のためのツール」ではない、ということでしょうか?

たぶん、「たんなるツールではない」といっているのです。あるいは、「ツールであると同時に構造計算の(公認された)プロセスそのもの体現する」ものとしてこの用語を使っているのです。そう考えれば、「国土交通省大臣が定めた方法」と「認定プログラム」の二者並置という表現もなんとなく腑に落ちてきます(あくまでも「なんとなく」ですが)。

結局、新しい建築基準法は、構造計算の方法(ここでは「ツール」という意味で使っています)を以下の三つに分類していることになります。

1. 手計算によるもの
2. (大臣認定のない)プログラムによるもの
3. 大臣認定プログラムによるもの

もちろん、1 については、基準法のどこかに「手計算」という用語が登場してくるわけではありません。しかし、基準法が制定された 50 数年前を考えれば、「構造計算は手計算で行うもの」というのが常識だったわけですから、「言わずもがな」のこととしてここにあげておきました。
2 が上に述べた「たんなるツールとしてのプログラム」であり、3 が「たんなるツールにとどまらず、一定のプロセスを体現しているプログラム」です。

以上が新しい基準法における「プログラム」の位置づけですが、しかしもちろん、今回の改正の趣旨が「確認申請の厳格化」と要約されているように、プログラムの使用をただたんに「追認」しているわけではありません。いわば、「追認」しながら「警告」を発しているのです。
これがつまり、今回の改正の目玉となる「適合性判定機関」の設立ですが、構造計算プログラムの側からいえば、それとワンセットになっている「プログラムの認定制度の改正」ということになります。

じつは、2007 年の 6 月をもって、これまでの大臣認定プログラムは全部「白紙撤回」されます。これまでの「認定プログラム」はすべて「非認定プログラム」になり、新しい制度のもとで認定をとりなおす必要が出てきたのです。注)

注)
最初にお断りしておきますが、ここでいう「構造計算プログラム」とは、構造計算の主要なプロセスを一連の流れで処理する、いわゆる「一貫計算プログラム」のことです。基準法にそれが明記されているわけではありませんが、しかし現在の状況からして、当面、それ以外のものに大臣認定制度が適用されることはないものと思われます(なぜ「当面」かというと、将来はあるかもしれない、という意味ですが)。
したがって、以下でいう「構造計算プログラム」(あるいはたんに「プログラム」)とは、とくに断りがない限り「一貫計算プログラム」のことである、とお考えください。

構造計算に限らず、現在では、建築設計のさまざまな局面にコンピュータプログラムが使われています。とりあえず CAD のようなものは除き、「計算」を主な機能としたプログラムに限っても、日影計算とか設備の負荷計算とか、さまざまな用途のものがあります。しかし、にもかかわらず、今回の基準法でもそれらについてはまったく言及されず、「プログラム」という語が使われるのはもっぱら「構造計算」に限られています。

私の知るかぎり、国の大臣が商用のプログラムを一つ一つ審査し認定する、という制度は建築構造計算プログラム以外にないはずです(もれ聞いた話では、他の国にもこのような制度はないそうなので、そういう意味では「世界で唯一」です)。
そうなると、当然ながら なぜ日本の建築構造計算プログラムだけが特別扱いされるのか という疑問が湧いてくるわけですが、それを知るには、この制度のルーツを調べておく必要がありそうです。

というわけなので、話が少々脱線しますが、以下、この制度が生まれた経緯について見ていくことにします。
(そんなことは知っている、あるいは興味がないから、制度がどう変わるのかを手っ取り早く知りたい、という方は以下を飛ばし、こちら までジャンプしてください。)


認定制度のルーツ

構造計算プログラムが大臣認定の対象になったのは、2000 年 6 月に( 1998 年改定の)建築基準法が施行されてからです。そんなに昔のことではありません。
手元に国土交通省が発行した構造計算プログラムの大臣認定書がありますが、その冒頭には「下記の構造計算又は建築材料については、建築基準法第 68 条の 26 第 1 項の規定に基づき.・・・」と書かれています。どうやら、この法律が認定制度の根拠になっているようなので、手元にある「改正建築基準法令集」(平成 12 年・建設省住宅局建築指導課監修)を開いてみます。注)

注)
これはもちろん、2006 年の改定前の基準法です。この部分も 2006 年に改定されているのですが、それについては後から述べます。

この条文の表題は「構造方法等の認定」です。
「構造方法」というのは耳慣れない言葉で、いきなりそう言われてもよく分かりませんが、とにかく、この「構造方法」の中に構造計算プログラムも含まれているらしいのです。それを「認定する」とは何なのか、ということについてもこの近辺に書いてありますが、要約すると、「その構造方法が政令に定める技術的な基準に適合するものであることを確かめる行為」ということになります。

第 68 条の 26 では、その行為(適合性を確かめる)のことを「評価」と呼んでいます。さらにここには、その評価行為については「大臣が指定する者に全部または一部を行わせる」ことができ、「その者が評価を行った場合は大臣自身は評価を行わない」と書かれています。
この「大臣が指定する者」が「性能評価機関」であり、構造計算プログラムについては、現在のところ、財団法人 日本建築センター(以下、たんに「日本建築センター」といいます)が一手に引き受けています。だから、大臣認定プログラムには、日本建築センターが発行した「性能評価書」と国土交通省が発行した「認定書」がワンセットで付いてくるのです。

日本建築センターのホームページには、このあたりの事情が分かりやすく説明されていますので、以下、そのまま引用させていただきます( 2007 年 2 月時点の掲載内容)。

建築基準法令には、建築物や設備について詳細な基準が定められていますが、特殊な構造方法を用いた建築物や新しく開発された材料、設備等については、一般的な基準ではなく、高度な方法によって性能を検証する場合があります。このような高度な検証を行った建築物や材料等に対応するため、国土交通大臣が認定(構造方法等の認定)する制度が設けられています。「性能評価」は、建築基準法に基づく業務で、この大臣の認定を受けるために必要な事前の審査を行うものです。

ここで注目したいのは 特殊な構造方法 という言葉です。
つまり、大臣認定という制度は「特殊な構造方法」に対して適用されるものであり、特殊でない、ごくフツーのものに対しては適用されないのです(たしかに、誰もが日常的に使うごくありふれたものにいちいち大臣認定という「通行手形」を要求されたのでは、それこそ「仕事になりません」)。
ここから何が分かるかというと、構造計算プログラム(あるいはそれがもたらす成果物)は フツーじゃないもの とされている、ということです。では、どのように「フツーじゃない」のかというと、そもそも、

構造計算にコンピュータプログラムを使う、ということがフツーじゃない

のです(というか、少なくとも、2006 年の基準法改定まではそのように見なされていたのです)。
なぜそんなことが言えるのか?
それは、このプログラムの認定制度というものの生い立ちを眺めてみれば分かります。

現在ではもっぱら「性能評価」という言葉が使われますが、これは 2000 年 6 月以降の話で、それまでは「評定」という用語になっていました。プログラムの評定は、日本建築センターが独自に行っていたもので、その起源は 1973 年(昭 48)まで遡ります。
(なお、以下のプログラム評定に関する情報は、もっぱら、日本建築センターが発行している雑誌「ビルディング・レター」のバックナンバーから得たものです。)

評定制度が立案された理由は、その数年前頃から「コンピュータを使って一般建築物の構造計算を行う」という人たちが出現し始めたからです。もちろん、超高層などの特殊な建築物の解析にコンピュータ(当時の一般的な呼称では「電算機」)が使われることはありましたが、それが、一般建築物の確認申請窓口にコンピュータの出力帳票の山がドンと積み上げられることになったのですから、審査官の戸惑いは想像できます。注)

注)
そう言えば、その頃はまだ「漢字プリンタ」というものが普及していませんでしたから、日本語は全部カタカナ表記になっていました。現在の私たちの感覚からすれば「とてつもなく見づらいもの」だったのです。

そういう状況(審査官の「戸惑い」)を受けてプログラムの評定制度が始まったのですが、「ビルディング・レター」のバックナンバーを拾い読みしながらその意義と効果を簡単にまとめてみると、

プログラムに一定の「質」を確保できる
行政庁の確認審査業務の効率化がはかれる

ということになります。また、その副次的な効果として「設計者が安心して使える」というようなこともあげられています(その当時に比べれば現在のユーザーは格段に成熟していますから、「認定プログラムだから安心」というのが現在も通用するかどうかは大いに疑問ですが)。

ただし、この時点で「コンピュータ」と言っているのは、いわゆる大型計算機(汎用機)のことで、それを使える環境にいる設計者というのは、全体から見ればごく限られた人たちでした。それ以外の大多数の設計者は、相変わらず電卓や計算尺にたよって仕事をしていたのです。
どういうことかというと、構造計算プログラムというのはたしかに フツーじゃないもの でしたが、一方、それを使うのも フツーじゃない人たち だったのです(この「フツーじゃない人」というのは「比較的恵まれた環境で仕事をしている人たち」という意味です)。

しかし、そうは言っても、コンピュータを駆使する人たちは確実に増えていったわけで、1977 年になると、この評定制度に行政的な根拠が与えられることになります。建設省住宅局建築指導課から各特定行政庁あてに発せられた「通達」というのがそれで、その内容は、

評定を取得したプログラムを使った構造計算書については、建築基準法施行規則第1条第1項の規定にもとづく「図書の省略」を可能とする。つまり確認申請時に「計算仮定に係る図書」は提出しなくてもよい。

というものです。ここで初めてプログラムの評定制度と行政上の取り扱いがリンクしたわけです。注)

注)
認定プログラムには、前記の「性能評価書」「大臣認定書」のほかに「指定書」というものも付いてますが、これは上の課長通達にかかわるものです。
しかし、なぜプログラムの評定制度の根拠が「図書の省略」というところに落ち着いたのか、という点については私たちにはよく分かりません。というのも、ここでいう省略可能な「図書」とはいったい何のことなのか、という問題が長い間アイマイにされてきたからなのですが、これについては後でふれます。

で、そうこうするうちに、世の中の状況が一変してしまいます。「パソコンの普及」です。
それまで、構造計算プログラムはたしかに フツーじゃないもの でしたが、一方、それを使うのも フツーじゃない人たち、つまりある程度範囲を特定できる人たちでした。しかし、それを今度は フツーの人たち、つまり不特定多数が使いだしたのです。
当然、評定する側からすれば「放っておけない」ということになります( 1979 年の「ビルディング・レター」にはすでにそのような内容の論評が見受けられます)。

そして 1982 年には、評定の対象を、パソコンを対象としたプログラムにも拡大せざるを得なくなります。
もっとも、当初は保有水平耐力の計算(ルート 3 )については評定対象から除外されていました。ようするに、パソコンというものがあまり信用されていなかったのですが、1995 年にはそれも撤廃されます。注)

注)
1995 年の「ビルディング・レター」には「今日のコンピュータ(パソコン)の性能は評定制度を開始した当時の大型計算機のそれをはるかに凌駕しているので、機械の物理的なサイズによって性能をうんぬんするのは無意味になった」と書かれていますが、これはむしろ「遅すぎた」という感がします。その年の内にマイクロソフト社の Windows95 が発売されたのはすでにご存知のとおりです。

・・・というのが 2000 年までの状況です。


2000 年

2000 年施行の建築基準法から、それまでの「評定」という制度は廃止されました。それが「性能評価」「大臣認定」という制度に変わったことは先に述べたとおりです。
それまで、プログラムの評定制度は、「課長通達」というプライオリティの低いもの(そのあたりの事情はよく分かりませんが、たぶんそうなのだと思います)で行政側とリンクされていただけなのですが、今度は、建築基準法の本文に「構造方法等の認定」という形の根拠を得て「格上げ」されたわけです。

「大臣認定制度はフツーじゃないものに適用される」と言いました。しかしさすがに、2000 年の時点で構造計算プログラムを「フツーじゃないもの」と呼んでいいかというと、それは大いに疑問です。構造計算をすべて電卓でまかなっている人たちというのは、全体からみれば圧倒的な少数派(もう少し踏み込んだ言い方をすれば「ほとんどいない」)と言ってもそう間違ってはいないでしょう。
しかし、そういう状況の中で、プログラムの評定制度は 2000 年に「認定」という形に格上げされました。
どうしてなんでしょう?

その理由は、フツーじゃないもの がまだあったからです。
それが、さきほど言った 図書の省略 です。詳細な結果が省略された構造計算書というのは、やっぱり「フツーじゃない」のです。

図書の省略、くわしく言うと「計算過程に係る図書の省略」ですが、この「計算過程に係る図書」とはいったい何を指すのか、というのが、じつは従来から問題になっていました。「図書の省略」というのがプログラムの評定制度と行政をリンクするキーワードのはずなのですが、(少なくとも私が知る限りでは)この内容を具体的に明文化したものはどこにもありませんでした。
ある人は、「応力計算や断面計算の結果だけをポンと出してもよい、それが図書の省略である」というし、「プログラムのマニュアルのことである」あるいは「プログラムのソースコードのことである」という答えもあります。人によって解釈が違うのです。

しかし 2000 年の時点で、この問題はある程度クリアーになりました。それが「構造計算書その1」と呼ばれるものです。

確認申請時には、「構造計算書その1」と呼ばれる、全体の構造計算書の要所を抜粋したものを提出すればよい。(とくに審査官からの要求があった場合を除き)すべてを網羅した詳細な出力、つまり「構造計算書その3」は出す必要がない。

ということになって「図書の省略」問題は一応決着したわけです。注)

注)
とは言え、実際には、確認申請時に「構造計算書その1」(およびコンピュータ出力以外のものをまとめた「その2」)だけの提出で確認申請がおりた、という事例はほとんどないのではないか、という気がします。この点に関して私たちの会社あてに多くの問い合わせをいただくのですが、どうも、(設計者の側にも審査官の側にも)この「構造計算書その1」というものの存在が認知されていないようです。
「構造計算書その1」の存在が認定制度の根拠になっているはずなのですが、じつはそうではなくて、国の認定という「お墨付き」だけが一人歩きしている気がしてならないのですが、まあ、これは余計な話です。


2007 年

さて、2007年施行の基準法です。
プログラムの認定制度というものに関し、ここで何が一番変わったのかといったら、それはもう、

「図書の省略」がなくなった

というその一点につきるのです(と私は思います)。注)

注)
ただし、これは改定された基準法の本文にそう書かれているわけではありません。行政的にそのようにな運用がなされるであろうと私たちは聞いている、という話なのですが、しかし、これは確実な情報です。

でも、だとしたら、やっぱり変です。
再三言ってきたように「認定制度はフツーじゃないものに適用される」のです。前項で述べたように、2000 年の時点で構造計算プログラムはすでに「ごくフツーのもの」になっていましたが、そこにはまだ「図書の省略」という「フツーじゃないもの」かがありました。それが認定制度の根拠になっていたのです。

しかし、この「図書の省略」をなくしてしまったら、今度はすべてがフツーになります。ましてや、冒頭に述べたとおり、新しい基準法では「構造計算ツールとしてのプログラム」を公認しているのです。
だったら、認定制度はもうなくっていいはずだ、と考えるのがごく常識的な筋道ですが、じつはその通りで、ある局面においては、今後、認定制度は意味をなさなくなる のです。
それはどういう局面かというと、「今まで通りの、行政庁あるいは民間機関による確認審査」です。
これに対し、どういう局面で認定制度が意味をなしてくるのかというと、それは、それ以外の確認審査、つまり「適合性判定機関による確認審査」です。

ただし、適合性判定機関による審査の場合でも、認定プログラムの使用が強制されるわけではありません。冒頭に述べたとおり、新しい基準法は「手計算」「認定のないプログラム」「認定プログラム」という三つの手段を公認しているのですから、当然、そのどれを使ってもいいのです。
しかし、そうは言っても、プログラムの認定制度は一方で厳然と存在しているわけですから、認定プログラムを使った場合・使わない場合の取扱いには何らかの差異があるはずです。
以下、このあたりのことも含めて、今度は「適合性判定機関」「プログラムの認定」というキーワードを手がかりにしながら新しい基準法をもう一度見ていくことにします。注)

注)
またしても余計な話をしてしまいますが、前項の最後の「注」で、これまでの認定制度は「図書の省略」という実務的な側面が無視され、「国のお墨付き」というよく分からないものだけが一人歩きしていた、という不満をもらしました。
何がそんなに不満なのかというと、往々にして、私たちメーカーが設計者(場合によっては確認審査の担当官)に「プログラムの認定制度とはこういうものである」ということを説明する役目を担わされてしまうからです。で、どうなるかというと、説明しているうちにこちらもよく分からなくなってしまい、その結果としてフラストレーションがもたらされることになります。
そういう意味においては、以下に述べるとおり、今回の改定はより「実務的」なものになっていますから、今後は、そのようなフラストレーションが軽減されるものとひそかに期待しているわけです。

まず問題は、「どのような建物が適合性判定機関にまわるのか」ですが、これは基準法第 6 条の 1 第 5 項にあり、ここには、建築主事が申請を受理した後に適合性判定機関にまわすのはどんなケースなのか、ということが書かれています。
以下、私が勝手な解釈をしていると思われないように原文をそのまま引くことにしますが、カッコの中が長くて全体がどうつながるのかが非常に分かりにくいため、カッコの中はオレンジ色でしめします。まず、黒い字を読んで全体を把握し、それからオレンジ色を読んでみてください。

建築主事は、前項の場合において、申請に係る建築物の計画が第 20 条第 2 号又は第 3 号に定める基準(同条第 2 号イ又は第 3 号イの政令で定める基準に従つた構造計算で、同条第 2 号イに規定する方法若しくはプログラムによるもの又は同条第 3 号イに規定するプログラムによるものによつて確かめられる安全性を有することに係る部分に限る。次条第 3 項及び第 18 条第 4 項において同じ。)に適合するかどうかを審査するときは、都道府県知事の構造計算適合性判定(第 20 条第 2 号イ又は第 3 号イの構造計算が同条第 2 号イに規定する方法若しくはプログラム又は同条第 3 号イに規定するプログラムにより適正に行われたものであるかどうかの判定をいう。以下同じ。)を求めなければならない

最初に「前項の場合において」と出てきますが、この「前項」には何があるのかというと、「建築主事は、確認申請を受理した日から 35 日以内にこれを審理し、確認済証を交付しなければならない」ということが書かれています(なお、この「 35 日以内」は従来は「 21 日以内」でした)。

さて、上の文章によれば、適合性判定機関の役割とは、その建物が「第 20 条第 2 号又は第 3 号に定める基準」に適合するかどうかを確認することである、となります。
その第 20 条とは何かというと、建物はその規模ごとに定められた安全性の基準にもとづいて照査されなければならない、というようなことが最初に書いてあり、その第 1 号は 60 メートル超の建築物、つまり超高層についていっているので、とりあえず今は関係ありません。
第 2 号は以下のようになっています。

2 高さが 60 メートル以下の建築物のうち、第 6 条第 1 項第 2 号に掲げる建築物(高さが 13 メートル又は軒の高さが 9 メートルを超えるものに限る。)又は同項第 3 号に掲げる建築物(地階を除く階数が 4 以上である鉄骨造の建築物、高さが 20 メートルを超える鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物その他これらの建築物に準ずるものとして政令で定める建築物に限る。) 次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。
イ. 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。この場合において、その構造方法は、地震力によつて建築物の地上部分の各階に生ずる水平方向の変形を把握することその他の政令で定める基準に従つた構造計算で、国土交通大臣が定めた方法によるもの又は国土交通大臣の認定を受けたプログラムによるものによつて確かめられる安全性を有すること。
ロ. 前号に定める基準に適合すること。

上のオレンジ色の部分を読むと、ここではどうやら、現行の設計法でいうところの「ルート 2 および 3」に該当する建物のことを言っているみたいです。注)

注)
「計算ルート」という言葉はそもそも何らかの法令に定められているものではなく、いわゆる「通称」「俗称」です。この用語が今後も使われ続けるのかどうかは分かりませんが、私たちの耳になじんだ言葉ですので、ここでは、そのまま使うことにします。

次は第 3 号の方です。

3 高さが 60 メートル以下の建築物のうち、第 6 条第 1 項第 2 号又は第 3 号に掲げる建築物その他その主要構造部(床、屋根及び階段を除く。)を石造、れんが造、コンクリートブロック造、無筋コンクリート造その他これらに類する構造とした建築物で高さが 13 メートル又は軒の高さが 9 メートルを超えるもの(前号に掲げる建築物を除く。) 次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。
イ. 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。この場合において、その構造方法は、構造耐力上主要な部分ごとに応力度が許容応力度を超えないことを確かめることその他の政令で定める基準に従つた構造計算で、国土交通大臣が定めた方法によるもの又は国土交通大臣の認定を受けたプログラムによるものによつて確かめられる安全性を有すること。
ロ. 前 2 号に定める基準のいずれかに適合すること。

これだけを読むと何のことかよく分かりませんが、(前号に掲げる建築物を除く。) のですから、第 2 号にある「ルート 2 および 3」以外の建物、つまり「ルート 1」を指していることになります。

で、え〜と、なんか頭が混乱してきそうですが、ここで再び第 6 条に戻らなければなりません。
第 6 条の文章を箇条書きにすると、適合性判定を行う構造計算書は以下の二つである、と言っていることになります。

1. 20 条第 2 号イ に規定する方法若しくはプログラムによるもの
2. 20 条第 3 号イ に規定するプログラムによるもの

さきほども述べたとおり、この 1 はルート 2 または 3 に該当するものですので、ここから、

建物の規模の上でルート 2 または 3 に該当してしまうものは無条件に適合性判定機関にまわる

ということが分かります。
問題は 2 の方です。これはルート 1 に該当する規模の建物のことを指していますが、これらのうち「 20 条第 3 号イ に規定するプログラムによるもの」だけが適合性判定機関にまわるのです。そして、このプログラムとはどういうものかというと、本文にあるとおり「国土交通大臣の認定を受けたプログラム」です。つまり、

ルート 1 であっても、認定プログラムを使用した場合は適合性判定機関にまわる

ということを言っているのです。
基準法の本文からはそのように読み取れるのですが、しかし、これは少々おかしい気がします。なぜなら、適合性判定機関で審査してもらうためには別途の手数料がかかりますし、また、地域によっては遠方に出向く必要が生じるかもしれません。そういう人にとっては、この制度は「認定プログラムを使用したことに対するペナルティー」とも受け取られかねません。
そのような理由から、実際の運用においては、「ルート 1 の建物に認定プログラムを使用した場合でも、適合性判定機関にまわさないで済む」という方法が何らかの形で制度的に保証されるものと思われます(あくまでも推測ですが、たぶんそうなります)。

ここで二つほど疑問があります。

規模の上ではルート 1 に該当する建物をルート 2 や 3 で設計した場合はどうなるのか?
基準法本文の上では、適合性判定機関にまわらない(従来通りの確認申請になる)ように読めるのですが、実際には、これから出される告示等で細則が決められることになると思いますので、これについては、現段階では「?」です。
認定プログラムを使ったが認定外(適用外)になる、というケースはどうなのか?
これは現在でも再三言われていることで、この種の問い合わせ(認定プログラムを使ったにもかかわらずその結果が非認定になる、とはどういう意味なのか?)は非常に多く、私たちが最も返答に窮するところ(だって私たちがそういう制度を作ったわけではないのですから)なのですが、これについては、たぶん「従来通り」ということになると思います。つまり、「認定プログラムを使用したとは認められない」ということです。注)

注)
ただし、従来は、認定外の場合は計算書にヘッダーを出力しない、となってましたが、もれ聞くところでは、認定外の場合でも「認定外」というヘッダーを出力する、ということになるようです(ただし未確定の情報)。

これまで分かっている部分を表にしてみると以下のようになります(表中の「−」は「その種別を問わない」、「?」は「現時点では不明」ということをあらわしています)。

建物の規模

計算ルート

計算手段

審査機関

ルート 3 相当

適合性判定機関

ルート 2 相当

適合性判定機関

ルート 1 相当

ルート 3

認定プログラム

認定プログラム以外

ルート 2

認定プログラム

認定プログラム以外

ルート 1

認定プログラム

適合性判定機関

認定プログラム以外

通常の確認審査機関


それで、結局、認定制度はどうなったのか?

大臣認定というのは「フツーじゃないもの」に適用される制度です(何べんも同じことを言ってすみません)。そして、(これまた何べんも言った気がしますが)今回の基準法の改正によって構造計算プログラムは「フツーのもの」になり、図書の省略の撤廃によって、その成果物も「フツーの構造計算書」になりました。

これにより、構造計算プログラムの大臣認定はその根拠を失ったように見えます。が、実際にはそうなりませんでした。
結局どうしたのかというと、今回の基準法は、「大臣認定制度というものの定義」そのものを拡大したのです。構造計算プログラム自体はもはや「特別」ではないが、しかし、それに適用される大臣認定制度というのは、他の認定とは違う 特別な認定 である、ということになったのです。
具体的に言うと、大臣認定という制度は、

特殊な構造方法(材料) ならびに プログラムに適用されるものである

となりました。
これが以下にしめす第 68 条の 26です(後半部分は略)が、今回変わった部分だけを太字にしました。

構造方法等の認定(前3章の規定またはこれに基づく命令の規定で、建築物の構造上の基準その他の技術的に関するものに基づき国土交通省大臣がする構造方法、建築材料又はプログラムに係る認定をいう。以下同じ。)の申請をしようとするものは、・・・

上の太字部分の 構造方法、建築材料又はプログラムに係る認定 は、もともと 構造方法又は建築材料 となっていました。これで一目瞭然です。
(今のところ、基準法の中で「プログラム」という用語が使われるのは「構造計算プログラム」に限られているので、ここにある「プログラム」は、とりあえず「構造計算プログラム」と考えておいていいでしょう。)

問題は、なぜここまでして「構造計算プログラムの認定」というものにこだわったのか、ということ、言い方を少し変えれば、「新しい認定制度は何を目指しているのか」ですが、これは言うまでもなく、新しく設けられた審査機関である「適合性判定機関」と関わっています。「適合性判定機関」と「構造計算プログラムの認定」はつねにワンセットなのです。
使用した構造計算プログラムが認定を取得しているかどうかが問題になるのは適合性判定機関においてだけで、従来通りの(行政庁あるいは民間の)審査機関ではこのことは問題にされません。注)

注)
というか、基準法の本文どおりに運用されれば、認定プログラムを使用した場合はただちに適合性判定機関にまわってしまうのですから、一般の確認審査機関では認定プログラムかどうかを問題にしようがないことになります。
ただし、さきほども述べたとおり、実際には、ルート 1 の建物に認定プログラムを使用したものの一部(もしかすると大部分)は通常の審査機関に回ることになると思われます。その場合、制度的には認定プログラムを使用したかどうかは問われないはずですが、しかし、審査官に対する心理的な効果(認定プログラムを使っているとなんとなく信用してもらえる?)はあるかもしれません。これについては、現時点では何とも言えません。

そして、適合性判定機関の中でそれが具体的にどう扱われるのかというと、

申請者が認定プログラムを使用した場合は、その原データ(何らかの媒体に収納された「データファイル」)を適合性判定機関に提出し、審査官はそれを使って 再計算 を行う。(つまり、適合性判定機関のコンピュータの中には各社の認定プログラムがすべてインストールされ、スタンバイしている。)

のです(これも基準法にそう書かれているわけではありませんが、すでに各所で報道されているとおり、確実な情報です)。

では、いったい何のためにそんなことをするのか、ですが、理由は二つほど考えられます。

1. 構造計算書のゴマカシの防止
2. 審査の効率化

1 については、すでにご存知のとおり、今回の法改正が、しきりに新聞をにぎわした「耐震偽装」事件を直接の契機としてなされたものであり、また一般にも「構造計算書のゴマカシができないように再計算を行うことになった」と報道されていますので、ここに一応あげてみたに過ぎません。

しかし、よく考えてみると、たんに再計算して結果に間違いがないことを確認するだけだったら誰がやってもいいはずです。一方、この審査機関に配置されるのは「誰でもいい人たち」ではなく、専門的な知識と経験をもった人たちなのです。それに、そもそも、ここには認定プログラムを使用しない計算書だってたくさん持ち込まれるわけですから、「ゴマカシの防止」はあまり本質的な理由にはなりえないはずです。

結論を言えば、この新しい認定制度の主眼は「適合性判定機関における審査の効率化」という点にあるのです(と私は思います)。
そして、その結果として、申請者(設計者)の側にも、

認定プログラムを使用し、原データを添付して審査に出せば審査機関が短くなる(かもしれない)

という副次的なメリットが生まれることになります。注)

注)
ここで、「かもしれない」とカッコ書きしたのは、「ものにもよるだろう」という意味です。
再計算した結果が提出した計算書と合致しなかった場合は、いろいろなやりとりが必要になり、結果として「えらく時間がかかった」ということだってあるかもしれません。なにしろ、まだ実際に制度が運用されているわけではないのですから、「やってみなければ分からない」という部分はいっぱいあるはずです。

いや、それは分かったが、では具体的に、新しい認定プログラムはこれまでのものとどう違ってくるのか(あるいは新しいプログラムに切替えるための料金はいくらかかる?)、それを早く知りたい、という方も多いでしょう。
しかし残念ながら、現時点では、具体的なことはまだ決まっていません。決まっていないのですが、大きな流れとしては、上に述べたような「審査の効率化」という観点から、「各社のプログラムの計算仕様や出力スタイルを出来るだけ同じにする」という方向で進んでいることは間違いありません。

以下にその主な項目だけを列挙し、とりあえず今回のコラムを終えることにしますが、今後、さらに具体的なことが決まった時点で「続報」を掲載する予定です。

構造計算書の目次・構成を統一する
出力を見やすく(図化出力の多用など)し、その体裁についてもできるだけ統一する
チェックリストの内容を統一する
ヘッダーやフッターの書式を統一する

(終わり)