5. マトリクスとは? (その1)
数学用語としての Matrix の訳語は「行列」ですが、しかし、どちらかといえばカタカナ表記の「マトリクス」の方が多く使われています。注)
注)
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マトリクスとベクトルの掛け算 |
マトリクスもベクトルも複数の数値を一まとめにしてあらわしたものですが、しかし、ただそれだけのことなら別にどうということもありません。肝心なのは、マトリクスとベクトル、あるいはマトリクスどうしの「掛け算」ができる、という点にあります。これは、さきほどのたとえを使えば、三年一組と三年二組を掛け合わせて三年X組という新しいクラスを作るようなものです。
ただし、これが普通の掛け算とは違うのは、「掛けるもの」と「掛けられるもの」の間に必ず一定の「相性」が必要になる、という点です。それがどういう相性なのかを知るために、まず「マトリクスとベクトルの掛け算」から始めることにします。
ここにある最初のルールは、
というものです。つまり、[ A ] × { B } はできても { A } × [ B ] はできないのです。
もう一つのルールは、
というもので、さらには、
というのだってあります。
しかし、これでは何のことかさっぱり分からないと思いますので、マトリクスとベクトルの掛け算の様子をあらわした下の図を見てください。
これは [ A ] × { B } = { C } という演算の様子をあらわすために、[ A ] の右上に { B } を書き、右下に { C } という結果を書いたものです。図中の破線が具体的な掛け算をあらわしています。
ようするに、得られた { C } というベクトルの最初の要素は、[ A ] の 1 行目の各列の要素に { B } の各要素を順番に掛け合わせたものの合計で、二番目の要素は、同様に、[ A ] の 2 行目の各列の要素に { B } の各要素を順番に掛け合わせたものの合計です。
これを見れば、さきほどのルール
の理由も納得していただけるはずです。
では、どうしてこんなヤヤコシイ掛け算を考え出したのかというと、それはもちろん、このルールにもとづくと、いろんなことが合理的にあらわせるからなんです。
マトリクスとベクトルによる変位法の基本式 |
変位法の基本式が P = K・δ である、ということはもう何度もいいました。そして前回取り上げた片持ち梁の例では、この基本式の中身が下のようになることを確認しました。
基本式 P = K・δ の中身が上のようになっている、ということは、この P はじつは( Pu, Pv, Pθ )という三つの値の総称であり、δ はじつは(δu, δv, δθ )という三つの値の総称である、ということです。つまり、これは { P } あるいは { δ } のようにあらわせる「ベクトル」なのです。
この { P } を外力ベクトル、 { δ } を変位ベクトルと呼びます。
そして、この間を取り持っている K の方はどうなのかというと、これがじつは「マトリクス」です。したがって、これを [ K ] のようにあらわし、剛性マトリクスと呼びます。
これがどのようなマトリクスなのかを知るために、さきほどの式を、わざと「係数 0 」を使って下のように書き換えてみます。
Pu =
( EA / L )・δu +
0・δv +
0・δθ
Pv =
0・δu +
( 12EI / L3 )・δv +
( -6EI / L2 )・δθ
Pθ =
0・δu +
( -6EI / L2 )・δv +
( 4EI / L )・δθ
これらの式と、前項に述べた「マトリクスとベクトルの掛け算」の図を重ねあわせると、結局、この場合の変位法の基本式は下のようにあらわせることになります。
ところで、外力ベクトルと変位ベクトルの要素数はともに「その骨組の自由度の総数」です。ということは、これらの仲立ちをしている剛性マトリクスは、「行数と列数がともに自由度の総数に等しい」マトリクスでなければならないはずです。
このような、同じ行数と列数をもつマトリクスのことを正方マトリクスと呼びます。つまりこういうことです。