はじめに

 変位法はフツーじゃない?

以前、小社で販売している変位法による応力解析プログラムにかんして、「計算結果がどうもおかしい、このプログラムには欠陥があるのではないか」という内容のサポート申し込みが来たことがあります。そこには下のような骨組の図が添えられていました。


これに対し、こちらからは「これは不安定構造、もしくはそれに近いものです」というような内容の返事をしたと記憶していますが、さらに返信があり、「これは三ピンラーメンと呼ばれるちゃんとした骨組で、不安定なはずがないでしょう」というようなことが書かれていました。
しかし、上の図(丸印がピンをあらわす)を見ていただければ分かるとおり、これは「三ピンラーメン」ではなく、間違いなく「四ピンラーメン」です。だから安定構造とはいえないのです。正しい「三ピンラーメン」は下図左のようでなければなりません。


ところで、上の二つの図を見比べて、結局は同じことと思う方は意外と多いのではないでしょうか?
あるいは、むしろその方が「フツーの感覚」なのかもしれないな、という気さえします。先ほどの質問を寄せられた方にしても、「四ピンであることは分かっているが、結局は同じことなのだから、やっぱりプログラムの方がおかしいはずだ」と言いたかったのかもしれません。
しかし、少なくとも「変位法」という解析手法の側から見た場合には、上の二つは別のものです。言い方を変えれば、これらを別のものと考える立場こそが「変位法」なのです。

つまり、私はここで何を言いたいのかというと、これらを結局は同じことと考える立場がフツーであるとするならば、明らかに、フツーじゃないのは「変位法」の側である、ということです。
ということなのですが、しかし一方には、その「フツーじゃないもの」を「ごくフツーに」使って設計している、という私たちの状況があります。これはいったいどういうことなんでしょう?

ひと昔前、つまり構造計算が手作業で行なわれていた時代には、「長期応力は固定モーメント法で、地震時応力はD値法で」というのが応力計算の定番でした。ここでもやっぱり「フツーじゃないこと」が起きないわけではありませんでしたが、しかしその理由はいたって明快です。「フツーじゃないことをやった」からで、これは「計算ミス」と呼ばれたりします。もう一度よく見直すか、あるいは頭を冷やして最初からやり直してみなさい、ということで一件落着です。

しかし状況は変わりました。今では、応力計算といえば「コンピュータプログラムを使って変位法でもとめる」のがごく当たり前です。キーボードを叩くなりマウスボタンを押すなりすればたちどころに答えが得られるわけですから、これは楽チンです。
ただしここで問題になるのは、「フツーじゃないこと」が起きてしまった場合です。単純なデータの入力ミスなら簡単ですが、何度データを見直しても間違いはなさそうです。これはようするに、自分は「フツーの入力」を与えているにもかかわらず「フツーじゃない出力」になってしまう、という状況といえますが、その理由は何なのかというと、

自分ではフツーだと思っていたが、しかし変位法にとっては全然フツーじゃなかった

ということです。その一つの例を先にあげました。

 知っておきたい変位法

このコラムの表題は「知っておきたい変位法」ですが、ここで何を「知っておきたい」のかというと、それはここまでの話からすでに明らかでしょう。

変位法はどのようにフツーじゃないか

です。
そして、それを知ることがどうして大事なのかというと、フツーじゃないものをフツーだと思って使っていると、そのうち本当にフツーじゃないこと、つまり「とんでもない設計」をしてしまうかもしれないからです。

1. 節点とはなにか?