限界状態設計法という考え方

 はじめに

おそらくは数十年くらい前から、主として日本建築学会を中心に、

許容応力度設計法は旧時代の産物である。世界的な趨勢はすでに限界状態設計法に移行しているのだから、日本の構造規定も速やかにこれに移行すべきである

という声が上がっていることは知っていました。
知ってはいたのですが、しかし私自身、ではその「限界状態設計法」とはいかなるものなのか、ということになると具体的なイメージが一向につかめず、「何か、そういうものがあるらしい・・・」でここまでやり過ごしてきたわけです。他の人のことをあれこれ憶測するのは無益かもしれませんが、おそらく、多くの建築構造技術者も私と同じだったのではないでしょうか?

たとえば、日本建築学会「鋼構造限界状態設計規準(案)」( 1990 ) という本の「序」には以下のようなことが書かれています。

本設計規準案では、
  1 ) 限界状態設計法
  2 ) 荷重係数および耐力係数
  3 ) 確率・統計論による信頼性設計手法 注)
による設計方式が採用されている。これらはこれまでの「鋼構造設計規準」に採用されてきた許容応力度設計方式とは異なるものであり・・・

注)
この部分は、原文では「信頼」という表現になっているが、1998 年に出された改訂版「鋼構造限界状態設計指針・同解説」では、より一般性のある「信頼」という表現に改められている。

まず最初に、このあたりで私はつまずいてしまいます。
どういうことかというと、この本の題名通り、私はこれを「限界状態設計法」の具体的なメソッドを説いたもの−−これを読めば「限界状態設計法とは何なのか」が分かる−−と思って手に取ったわけなので、上にあるように、この設計規準を形成する三本柱のうちの一つが「限界状態設計法」である、と言われると途端に頭が混乱してしまうのです。
この疑問はおそらく、「この本で提案している限界状態設計規準(別に他の名前でもよかったのだが、とりあえずそう呼ぶことにした)とは、いわゆる限界状態設計法と呼ばれているものと、その他・・・をベースとして作られたものである」というふうに解釈することで解決するのでしょう。
が、それにしても、「荷重係数・耐力係数」「信頼性設計手法」が何のことなのか分かりません。「限界状態設計法」とはまた別のものなのでしょうか?
−− しかしよく考えてみると、この本を手にするのはそのあたりを「自明」としている人たちであり、これはおそらく、そのような読者層を想定して作られた本なのでしょう。だとすれば、そのことに文句を言ってみても始まりません。

したがって、そのようなことを「自明」としない(私のような)人間は他の本を探すしかないのですが、なかなか適当な本が見当たりません。
古書店でやっと見つけたのが、神田順編「限界状態設計法のすすめ」( 1993 年・建築技術、ただし現在は絶版)です。そういうわけで、今回は主としてこの本に頼りながら、限界状態設計法というものの、せめてその「輪郭」だけでも探り当ててみたいと考えています。