認定プログラムに関する Q&A

2005年11月に発覚した一連の構造計算書偽造事件(詳細についてはすでにご存知のとおり)に関連し、弊社の構造計算プログラムについてお客様から連日さまざまなお問い合わせをいただいています。
プログラムの認定制度そのもの、あるいは認定プログラムを使用した構造計算書の取り扱い等については、「ビルディング・エディタ Ver.4」のユーザーズマニュアルでも簡単にふれています(「操作編」の「7. プログラムの性能評価と大臣認定について」)が、旧版製品をお持ちの方からも多数ご質問をいただきますので、この際、この場を借りてご質問に総括的にお答えしよう、というのがこの一文の主旨になります。

さらにここでは、「プログラムの認定制度とはそもそも何なのか」ということについても、少し踏み込んで考えてみたいと思います。というのも、連日の報道を目にしたり問い合わせの内容をお聞ききしたりしていると、どうも、「プログラムの認定制度」というものがさまざまな誤解に取り巻かれているような気がしてならないからです。

もちろん、わたしたちソフトウェアメーカーは「認定を受ける」側の一民間業者に過ぎず、「プログラムの認定制度とはこういうものである」と高い所から言えるような立場ではありません。また、詳細にわたって十分に承知しているとは言えない部分もあるかもしれません。しかし、以下に述べることが「大筋において間違っていない」ことについては確信している次第です。注)

注) 2005年12月13日の朝日新聞の報道によれば、今回の一連の騒動を受けて、国土交通省が現行のプログラム認定制度の「抜本的な見直し」に乗り出しているとのことです。したがって、近い将来、(もしかすると制度そのものの撤廃ということも含め)この制度の内容が大きく変わる可能性があります。そういうわけなので、以下に述べているのは、2005年12月現在で施行されている制度にもとづいた話である、ということをあらかじめお断りしておきます。


目次
Q1. 確認申請の審査官から「大臣認定書の写しを添付するように」と言われた
Q2. 現行制度での大臣認定を取得していない旧版のプログラムを使った場合どういう扱いになるのか
Q3. 認定番号等のヘッダーが印字されない構造計算書はどういう扱いになるのか
Q4. 応力計算や断面計算のみを行うプログラムにも大臣認定があるのか
Q5. 確認申請の審査官から「利用者証明書の有効期限」について問われた


Q1. 確認申請の審査官から「大臣認定書の写しを添付するように」と言われた

認定プログラムであることを証明する書類には「性能評価書」「認定書」「指定書」の三つがあります。現行の制度下では、これらは建物の構造種別( RC / S / SRC )ごとに取得するようになっていますので、計 9 種類( 3 × 3 )の書類が存在することになりますが、すべて こちら に揃っています。

これらのうち、「性能評価書」は(財)日本建築センターが発行したもの、「認定書」「指定書」は国土交通省大臣が発行したものです。この三つの書類がそれぞれどのような意味を持つのか、ということについて説明しようとすると、どうしても「プログラムの認定制度とは何なのか」を明らかにする必要があります。
いささか長くなりますが、以下、わたしたちが承知している範囲内で説明を試みます。

認定書と指定書

わたしたちのようなソフトウェアメーカーは、まず、国土交通省の指定機関である(財)日本建築センターに「電算プログラムの性能評価」の申請を行い、受理されると、プログラムの内容に関して担当官による一定期間の審査が行われます(その内容は「建築基準法等に則った計算がなされているか」「データないし計算結果に問題があった時に適切なメッセージが出力されるか」等です)。必要な補正を加えて最終的に「適正なプログラムである」ことがそこで証明されると「性能評価書」が発行されます。
その性能評価書を添えて国土交通省にあらためて大臣認定を申請するのですが、実質的な内容審査は日本建築センターにおいて完了していますから、その後はほとんど事務的な手続きになります。
簡単に言ってしまえば、確認申請の現場において現実的な行政上の効力をもつのは国土交通大臣発行の「認定書」「指定書」で、「性能評価書」はその内容を担保するものである、ということになります。

となると、「そもそも認定書指定書はどのように違うのか」という疑問が湧いてきますが、これを理解するには、「認定プログラムの効用とは何なのか」を先回りして知っておくのが手っ取り早いと思われます。
じつは、これはいたって単純明快で、

認定プログラムを使うと、確認申請時に構造計算書の一部を提出しなくてもよくなる(計算書が薄くなる)

のです。
これが認定プログラムのもたらす「目に見える、現実的な効用」です。この他に、「目に見えない、抽象的な効用」もあるわけですが、ここでお話するのはもっぱら「目に見える、現実的な」方です。

指定書の文面を読んでいただくと分かりますが、その最初の方に「確認申請書に添える図書から除かれる図書を指定する」とあります。ようするに、「確認申請時に提出しなくてもよい(省略できる)図書の種類」を指差しているのが指定書です。これに対し、「このプログラムを使えば図書の省略が可能ですよ」として特定のプログラムを指差しているのが認定書です。

この制度は一般に図書の省略という名前で呼ばれていますが、その根拠となっている法律が「建築基準法施行規則第1条の3第1項」です。
この条文は「確認申請に必要な書類」を定めたもので、当然この中に「構造計算書」も入っているわけですが、この本文の括弧内に「(構造計算書等のうち)建設大臣(現国土交通省大臣)の指定したものを除く」という但し書きがあります。つまり、この但し書きにもとづいて「大臣認定プログラムを使うと構造計算書の一部を省略することができる」という仕組みが出来上がっているのです。

認定制度の効用

さきほど、認定制度には「目に見える、現実的な効用」と「目に見えない、抽象的な効用」がある、という話をしましたが、構造計算書というものは、明らかに「目に見えるもの」です。これに対し、プログラムとは一連の機能(はたらき)の集合をあらわすものですから、本来「目に見えないもの」です。
これを指定書・認定書という二つの書類に当てはめると、指定書は「(認定制度の)目に見える、現実的な効用」をあらわしたものであり、認定書は「目に見えない、抽象的な効用」をあらわしたものである、ということになります。

しかし、ここまでの説明から明らかなように、指定書と認定書というのは、本来、表裏一体・不即不離のものであるはずです。どちらかが一人歩きし始めたらおかしなことになります。どういうことかというと、「現実的な効用」から切り離された「抽象的な効用」はたちまち「役所のお墨付き」「水戸黄門の印籠」に変じてしまうのです(そうなるとロクなことが起きない、というのはすでに今回の事件が証明済みです)。
というわけなので、以下、「現実的な話」をさらにつづけることにします。

図書の省略

この「図書の省略」という制度がなぜ存在しているのかというと、これは「確認申請業務の効率化・省力化」ということにつきると思います(少なくともそれ以外の理由は思いつきません)。
しかし、わたしたちにとっての当面の関心は「なぜ省略できるのか」ではなく、何が省略できるのかです。よく読むと、これも指定書にちゃんと書かれています。最後の行にある「当該構造計算プログラムの計算過程に係る図書」です。しかし、これでもまだよく分かりません。
「計算過程に係る図書」とは何なんでしょう?
じつは、よく分かりません。少なくとも、わたしたちが容易に目にすることのできる文書の中に「計算過程に係る図書とはこういうものである」と具体的に定義しているものは一つもないはずです。
しかし、「現在、一般に、どのように解釈されているのか」なら言うことができます。

認定プログラムを使用している方ならすでにご存知かと思います(使用していない方は日本建築センターのウェブサイトで確認できます)が、「認定プログラムを使用した場合の構造計算書の構成」というものが定められており、「その1」「その2」「その3」 の三部構成になっています。その内容を要約すると以下のとおりです。

その 1 建築物の構造設計に関する概要をとりまとめたもの(いわゆる「概要書」)
その 2 プログラム内で行われない二次部材の設計等をとりまとめたもの
その 3 プログラムにより出力される詳細な計算をとりまとめたもの

そして、認定プログラムを使用した場合、確認申請時に提出する構造計算書は基本的に「その1」「その2」だけでよく、確認検査機関の求めがあった場合は適宜「その3」を提出する、とされています。
ということは、この文脈から推し量ると、「計算過程に係る図書」とは「構造計算書 その3」のことである、と考えていいような気がします。なぜ「気がします」なのかというと、さきほども言ったように、べつにどこかにそのような明確な定義があるわけではないからなのですが、しかし、これが現在一般に流布している考え方であることは間違いありません。
つまり、

認定プログラムを使うと、確認申請時に、構造計算の詳細な出力の提出を省略できる

のです。注)
(正確には「認定プログラムを使い、かつその出力頁に所定のヘッダーが印字されている場合」になりますが、これについては後述します。)

注) この「計算過程に係る図書」にはもう一つの解釈があって、それは、「これはプログラムのソースコードのことである」というものです。実際、昔(と言っても20年ほど前のことですが)は、プログラムのソースコードを1頁ずつ出力し、それをマイクロフィルムに収めた上で建設省(現国土交通省)に提出していました。そういう事実からすると、もともとは「プログラムのソースコード」のことを指していたのかもしれません(プログラムに対して制作者の知的所有権を認める、という立場からすると、現在では受け入れるのが難しい考え方でしょうが)。

認定書の写しの添付

ここで当初の質問に戻り、「なぜ確認申請時に認定書の写しを添付しなければならないのか」ですが、これもやはり「建築基準法施行規則第1条の3第1項」にかかわっています。この中に、先ほど述べたような「図書の省略」についてふれている箇所があるのですが、その前段に「当該認定に係る認定書の写しを添えたものにおいては」という条件が挿入されています。ようするに、

認定プログラムを使い、認定書の写しが添えられたものについては、確認申請時に構造計算書の一部が省略されていてもよい

のです。
なお、(余計なことですが)これを逆に読むと、「構造計算書を省略せずに全部提出しているのであれば、べつに認定書を添える必要はない」となります。注)

注) なぜこんな「余計なこと」を考えてしまうのかというと、ここまで述べてきた「図書の省略」という特典は(わたしたちが見聞するかぎりでは)実際にはほとんど行使されておらず、「構造計算書を全部提出した上でそこに認定書を添える」というのが現在の確認申請の現場における「一般慣習」になっているからです。


Q2. 現行制度での大臣認定を取得していない旧版のプログラムを使った場合どういう扱いになるのか

前項で述べた、性能評価・大臣認定という制度は2000年施行の改定建築基準法にもとづくもので、それ以前は「プログラムの評定」と呼ばれる制度になっていました。
したがって、旧版のプログラムは現行制度下での「認定プログラム」とは見なされません。では何なのかというと、「認定を受けていない一般の構造計算プログラム」です。
前項の内容からすでにお分かりと思いますが、認定プログラムとは図書の省略ができるもので、認定を受けていない一般のプログラムは図書の省略ができないものです。したがって、一般の構造計算プログラムを使った場合は確認申請時に「プログラムの詳細な出力をまとめた構造計算書」を提出した上で審査を受けなければいけない、ということになります。言ってみれば「ただそれだけのこと」です。

認定プログラムを使用して作成した構造計算書に認定書を添えたからといって、「その構造計算が正しい」ということの証明にはいささかもなりません。これは本来「当たり前の話」なのですが、これがもし当たり前でなくなってきているのだとしたら、その理由についてはすでに話しました。認定制度の「現実的な効用」を離れて「抽象的な・精神的な効用」が一人歩きを始め、いつのまにか「水戸黄門の印籠」になってしまったからです。
そもそも、構造計算の「手段」について規制している法律はどこにもありません。手計算でもいいし、自作のプログラムを使ってもいいのです(これも本来は「当たり前の話」のはずなのですが...)。


Q3. 認定番号等のヘッダーが印字されない構造計算書はどういう扱いになるのか

認定プログラムを使用したことの証として計算書のヘッダーにプログラム名や認定番号等が印字されます。ただし、これは認定プログラムを使うと必ず印字されるわけではなく、プログラムの性能評価の範囲外で使用した場合、および部材の応力度が許容値を超えている場合には出力されません(弊社のプログラムの場合は、それぞれ「評価範囲外」「評価不適合」という種類のメッセージが出力されます)。注)

注) 以前(基準法の改定前)のプログラムでは、部材の応力度が許容値を超えている、という内容をたんなる「警告メッセージ」として取扱うのが一般的でしたが、今ではこれを「不適合」あるいは「不適正」とするのが一般的なようです。部材の応力度が許容値を超えている、ということは、建築基準法に定める「発生する応力に対して部材を安全に保つ」という考え方に適合しないから、ということ考え方なのだと思います(たぶん)。

この場合の取り扱いはどうなるのかというと、たとえ認定プログラムを使っていても運用上は「認定外」とみなされることになります。つまり「図書の省略」という特典を使うことはできませんので、事実上は「認定を受けていない一般のプログラムを使用した」のと同じ扱いで、確認申請時に「プログラムの詳細な出力をまとめた構造計算書」を提出しなければなりません。
ただし、くれぐれも注意していただきたいのは、

ヘッダーが出ないからといって、その構造計算が間違っているわけではない
間違っているかどうかがプログラムでは分からないのでとりあえず判断を保留すると言っているだけである
ということです。

一つの例として「地震力の作用方向」をとり上げてみます。
現在の構造計算では、地震力は XY の二方向について考えればよい、とされています。これは、現在建設される多くの建物が「桁行方向」「梁間方向」という直交するグリッド線上に乗った骨組により形成され、この場合には、桁行・梁間のいずれかの方向に水平力が作用した時に部材に最大応力が発生することがあらかじめ分かっているからです。
この時、このような建物に対して、設計者が何らかの意図をもって地震力の作用方向を 45 度に振ったとします。この場合でも、プログラムは「 45 度方向の水平力が作用した時の応力」を忠実にもとめ、粛々と結果を出力します。
しかし、プログラム内で、この「地震力の作用方向を 45 度に振った」という設計者の意図が適切なものかどうかを判断するのはきわめて難しい(限りなく不可能に近い)ことです。したがって、この場合には、プログラムは判断を保留します。つまりヘッダーを出力しません。
これとは逆に、「地震力の作用方向を変えてはいないが建物の形状が三角形である」というケースもあり得ます。この場合も同様に「その方向に地震力を作用させた時に本当に部材に最大応力が発生するのか」をプログラムが判断するのは事実上不可能です。したがって、前のケースと同じようにプログラムは判断を保留します。つまりヘッダーを出力しません。

(この種の問い合わせは非常に多いので)しつこく繰り返しますが、ヘッダーが印字されないという事実は「その構造計算は間違いである」と言っているのではなく、「正しいかどうかの判断を保留します」と言っているに過ぎません。
では、最終的な判断は誰に委ねられているのかというと、それはもちろん、「その建物の構造設計をした人=設計者」です。
ですから、確認申請時に審査官からそのことに関する疑義が出されたならば、設計者は、その設計の正当性を証明する技術的な根拠を示さなければなりませんし、それに必要な書類を提出しなければなりません。これが、さきほど「事実上は認定を受けていない一般のプログラムを使用したのと同じ扱いになるので、確認申請時に詳細な構造計算書を提出しなければならない」と申し上げたことの具体的な意味です。


Q4. 応力計算や断面計算のみを行うプログラムにも大臣認定があるのか

日本建築センターの性能評価の対象とされているのは、準備計算・応力計算・断面計算(あるいは保有水平耐力計算)までを「一連の流れで処理する構造計算プログラム」です。
したがって、応力計算や断面計算のみを行う「部分計算プログラム」は評価・認定の対象になりません。つまり、こういうプログラムを使用した場合は「図書の省略はできない」ということです。


Q5. 確認申請の審査官から「利用者証明書の有効期限」について問われた

2000年の改定基準法の施行前までは、確認申請時に「利用者証明書」というものを添付することになっていました。法改定にともない、そのような決まりは実質的になくなったのですが、弊社では、それまでの慣習にもとづいて「利用者証明書」を発行し、「利用者番号」を認定番号等とともにヘッダーに印字する、というシステムをとっています。
したがって、制度上は、確認申請時に「利用者証明書」を添付しなければならない理由はないのですが、「今までの慣習にもとづいて」提出をもとめられた場合は、弊社発行のものを提出してください。
そのような状況なので、各メーカーにより、利用者証明書を発行している所・していない所があり、また利用者証明書に「有効期限」を設けてユーザーに定期的に更新させる、というシステムをとっている所もあります。弊社は「利用者証明書は発行するが有効期限は設けない」というシステムをとっています(証明書の根拠となる認定制度がつづく限り、あるいは記載内容が実際の状況と合致している限りにおいて利用者証明書は有効であると考えています)。

(終わり)