二つの許容曲げ応力度 - 2 -

部材の強軸回りに曲げモーメントが作用していると、それによって強軸方向に「曲げ撓み」が生じる。しかしそのまま曲げモーメントを漸増させると、ある瞬間に部材が捩れて弱軸方向に変形してしまう。この現象が「横座屈」で、それが生じた時の作用モーメントが前項に述べた「横座屈モーメント」である。
したがって、「横座屈モーメント」とは部材の「捩り抵抗力」をあらわすもので、作用モーメントがこの値以下であれば横座屈は起きない。そして、そのための指標として使われるのが「横座屈を考慮した許容曲げ応力度」という値なのだった。

ところで、部材には二つの「捩れ方」がある。
下図のような丸棒に捩りモーメントが作用している時、材の任意位置の切断面がどのように変形するかを想像してみる。


一つの捩れ方は切断面が完全に平面を保ったまま「ずれる」もので、純捩り または サン・ブナン捩り と呼ばれる。これは材の端部に拘束がなく、一定の捩りモーメントが作用しているような状態で顕著に見られるもので、この場合、材の軸心は元の位置から動かない。
しかし材の一端が拘束されている場合は、切断面の凹凸、つまり「反り」が生じる。これが 反り捩り または 曲げ捩り と呼ばれるものである。切断面に生じる「反り」は断面内に存在する不均一な軸応力度によりもたらされるものなので、その結果、材の軸心に「曲がり」が生じることになる。

部材の捩り抵抗力は、この「曲げ捩り ( 反り捩り ) 」に対する抵抗力と「サン・ブナン捩り ( 純捩り ) 」に対する抵抗力を合成したものになる。これが前項の 式C で、根号の中の第一項が曲げ捩り、第二項がサン・ブナン捩りに対する抵抗力に相当している。
そして 式A は「曲げ捩りだけを考えてサン・ブナン捩りを無視する」、式B は「サン・ブナン捩りだけを考えて曲げ捩りを無視する」ことによって得られたものである。

ただし 式A については若干の注釈が必要になる。この式はサン・ブナン捩りを無視しただけでなく、「非弾性域」をターゲットにしたものになっているのだ。
話が長くなるので詳細は省くが、座屈という現象に関しては「弾性域」と「非弾性域」――「弾性域」と「塑性域」の間を指す――に分けて考える習慣がある。その境界となるのが「限界細長比 Λ 」という値だが、この値を使い、「座屈を考慮した許容圧縮応力度」の非弾性域 ( 細長比 λ が Λ よりも小さい ) の値は以下のように定義されている。



これと前項の 式A を見比べていただければ分かるが、そっくりな形をしている。そっくりになるように式を作ったのだから当たり前だが、このようにした理由は 「曲げ捩りによる座屈現象は非弾性域において顕著にあらわれるため」とされている。
これに対する 式B の方は弾性域のみを対象としたものになっているが、これは「サン・ブナン捩りについては非弾性の影響をあまり受けない」と考えたためである。
ところで、許容圧縮応力度の式と前項の 式A はたしかによく似ているが、しかしよく見てみると、内容的にはかなり違う部分がある。それが上式の分母になっている ν、つまり「安全率」の値なのだ。

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