続・建物の固有周期について考える

前回のコラム「建物の固有周期について考える」で、日本建築学会「建築物の耐震設計資料」という本の中に固有周期の推定式が 13 種類 ( ! ) も載っていることを紹介したところ、ある方からメールをいただきました。「差し支えなければ、その式を教えてもらえないか」とのこと。
たしかに、上記の本 ( 1981 年刊 ) はすでに絶版になっており、容易なことでは手に入らない状況ですので、以下に式の概要だけを紹介することにしました ( 本来は式の提唱者とその論文等を明記すべきなのかもしれませんが、これはそういう主旨の文章ではありませんので、省略しました )。

いずれの式も、建物の1次固有周期の実測データをもとに、これを建物の「層数」「高さ」「プロポーション」「剛性 ( 壁量 ) 」、あるいは建設地の地盤性状などをパラメータにして回帰的に表現しようとしたものです。なお、以下では建物の1次固有周期の推定値 ( 秒 ) をすべて Ts という記号であらわしています。

谷口式 ( T ) ―― ここに T とあるのは、後ほど U が登場するためです

N:建物の層数

F.P.Urlich と D.S.Carder の式

H:建物の高さ ( ft ) 単位がメートルではないことに注意 ( ちなみに、1 フィートは約 0.3 メートル )

サンフランシスコ・コードの水平力に対する式

D:建物の振動方向の奥行き ( ft )
H:建物の高さ ( ft ) いずれも、単位がメートルではないことに注意

Geiger の重力式

η:各層の水平方向に重力を加えた場合の頂部のたわみ ( cm )
C:建物の剛性によって変わる定数で、実用的には 5.5 という値がよく使われる
これはかなり有名な式で、新耐震設計法の解説書や「黄色本」などにも取り上げられているのはご存知の通り。

武藤式

K:設計震度
H:建物の高さ ( m )

中川式

N:建物の層数

竹内式

H:建物の高さ ( m )
γ:壁率 = 壁の全長 (m) / 各階床面積の総和 (m2)

谷口式 ( U )

N:建物の層数
Z は建物の開口面積やスパン数により定まる係数で、通常は 0.07 から 0.08 程度の値になる

大築式

N:建物の地上高さに地下深さの 1/3 を加えた値 ( m )
f1:建物の壁率により定まる値
f2:建設地の地盤性状と基礎形式、及び建物のプロポーション ( 奥行 / 高さ ) により定まる値

金井式

H:建物の高さ ( m )
D:建物の振動方向の奥行 ( m )

小高式

H:建物の高さ ( m )
D:建物の振動方向の奥行 ( m )
w:壁率 = 壁の全長 (m) / 各階床面積の総和 (m2)

G.W.Housner の式

C:建物の質量・剛性・階高により定まる定数
N:建物の層数
B, D:建物の幅・奥行 ( m )

高層建築技術指針の式

N:地階を含めた建物の層数

―― 以上ですが、いずれにしても、「どのような建物に対しても通用する万能式」は存在しません。 ( 前回も書いたように ) そのような観点からすると、新耐震設計法の策定にあたって「いちばん単純な式」が選択されたことには相応の理由があったものと思われます。つまるところ、建物の固有周期とは「よく分からないもの」なのです。

( 文責 : 野家牧雄 )