先取り! Windows8

どうやら、数ヶ月後 ( 11 月頃? ) に Windiws8 が発売されそうです。今回のインターフェイスの改定は、Windows3.1 から 95 に移行した時以来、約 17 年ぶりの「大事件」とされています。
思い返してみると、Windows95 の発売は「社会的事件」と呼ばれ、マスコミがこぞって取り上げてお祭り騒ぎになりましたが、今回も同様の現象が起きるのでしょうか?
たぶん、そうはならないと思います。
今回の OS の目玉はタブレットPC――いわゆる「指タッチ式」のインターフェイス――への対応ということにあるのですが、そのこと自体には何の新鮮味もありません。すでに私たちは iPad やスマートフォンで体験済みです。
現在の私たちは、プライベートな局面では「タッチ」、会社に行くと「マウス & キーボード」というふうにデバイスを使い分けているわけですが、ようするに、それを「会社でもタッチ」にしようとしているのがマイクロソフト社の思惑である、と考えておけばいいのでしょう。注)
はたして、本当にそうなるのでしょうか?

注)
現在のタブレット PC の市場は iPad が 70% のシェアをもっているのですが、マイクロソフト社の目標は、とりあえず 1 年以内に 20% のシェアを獲得することにあるようです。

すでに 6 月初旬に Windows8 の最終的なプレビュー版 ( Release Preview ) が公開されて使用可能になってますが、なにぶん、これを日々の仕事に使うわけにはいきません。したがって、個人的な興味をお持ちの方が自宅の PC にインストールするというケースを除けば、実際に Windows8 を体感した方はかなり少数なのではないかと思います。
そこで今回は、私自身が実際にプレビュー版を使ってみた経験をもとに、Windows8 という OS が「大体どんなものなのか」を皆さんにお伝えすることにしました。

Windows8 にさわってみる

新 OS の目玉は「タッチ操作」にあるのですが、もちろん、私たちがいま使っている PC に Windows8 をインストールするとそれができるようになるわけではありません。
ARM と呼ばれる特有のプロセッサを備えた「それなりのマシン」が必要になるのですが、これを「 OS 込み」で新規に購入 注) するしかありません 。

注)
となると、当然その「価格」が問題になりますが、現在、キーボートを着脱して「タッチ」と「マウス & キーボード」の両用に使えるマシンが試作されていて、10 万円前後の価格になるとの情報があります。5 万円前後で買える iPad に比べると、やっぱり割高ですね。

そして、そののマシンにバンドルされている Windows8 をとくに WindowsRT と呼ぶようです。
このあたりは何となく分かりにくいかもしれませんが、Windows7 に 32 ビット版と 64 ビット版があるのと同様、Windows8 にも 32 ビット版と 64 ビット版があり、ここにはさらに ARM 版というものもあるのだ、と考えておけばいいのでしょう。
ただしどの版でも、見える画面は同じで、違いは「指が使えるかどうか」だけです。また、タッチ操作を前提に作られたアプリ――ちなみに、これからは「プログラム」でなく「アプリ」と呼ぶらしい――でも、指のかわりにマウスを使えば動かすことができます。
何はともあれ、最初の画面を見ていくことにしましょう。

一見して「今までとは違う」ことが分かります。
色分けされた四角形がタイル状に並び、そこにアイコンと文字――この画面では見にくいでしょうが、「メール」「天気予報」「ニュース」など――が書き込まれているのが見えるでしょう。このような外観を、マイクロソフト社は Metro ( メトロ ) スタイルと呼んでいます。 注)

注)
なぜ「メトロ」なのかというと、どうやら、日本の地下鉄の路線図が路線別に色分けされているところから発想を得たものらしいです。

このタイルの一つ一つが何らかの機能やアプリを表わし、これをクリックすると、メールを送ったり、あるいは天気予報やニュースを見ることができる、というわけです ( 残念ながら私の環境ではタッチ操作が行えないので、以下「クリック」と書きますが、もちろん、本来は「タッチ」です )。
で、ここで一番左下に見えている「デスクトップ」という表題のタイル ( チューリップの写真 ) を選ぶと、下にあるような、私たちがいま見慣れている画面が出てきます。

この画面の左下に「インターネット・エクスプローラ」と「 Windows エクスプローラ」のアイコンが見えていますが、注目すべきは スタートボタンが消えている! ということです。それもそのはず、これまでの「スタートボタン」にあった機能はすべて最初の「スタート画面」に移ったのでした。
ここで最初の「スタート画面」をもう一度見ていただきたいのですが、この画面の右側にある 5 個のタイルは私が新たにインストールした「従来形式のプログラム」で、これを選ぶと自動的にデスクトップ画面に移って「アプリ」が起動します。したがって、これを デスクトップ・アプリと呼ぶことになっています。

私たちが現在使っているプログラムはすべて「デスクトップ・アプリ」なわけですが、Windows7 で稼働しているものはすべて Windows8 ――正確には、Windows8 の機能の一部として提供されるデスクトップ環境――でも稼働すると考えていいようです ( マイクロソフト社がそのようにアナウンスしているので )。
したがって今回は、新 OS への切り替えにあたり、「このソフトは Windows8 に対応しているのか」というようなことで悩む必要はありません。

補足 ) システムの終了
これまでの Windows では、「スタートボタンを押してからシステムを終了する」というのが 習慣になっていました。「スタートしてから終わる」というのは、よく考えてみるとは奇妙な手順ですが、ここではスタートボタンがないのでそのような方法は使いません。
画面の右端にマウスカーソルを移動すると各種の設定画面――現在の「コントロールパネル」に相当する機能はここにある――があらわれるのですが、システムの終了 ( シャットダウン ) もここから行うことができます。
逆に、画面の左下にマウスカーソルを移動すると「スタート」と書かれた小さな画面がポップアップします。これをクリックするか、もしくはキーボードの Windows ボタンを押せばいちでも「スタート画面」に戻ることができます。

このデスクトップ上で動くプログラムは Windows7 上で動くものと何ら変わりません。そういう意味では、Windows7 のユーザーは「安心して Windows8 に移行できる」のですが、しかしたんにこれだけのことであれば、 ( 主として仕事で PC を使っているユーザーにとっては ) わざわざ Windows8 に乗り換える必要性は感じないかもしれません。
とくに、いまだに WindowsXP を使い続けているユーザーに対しては「システムのクリーンインストール」が要求されますので、これはかなり高いハードルになるでしょう。
となると、「 2014 年のサポート期限が切れるまで頑固に XP を使い続ける」という選択もあるでしょうし、あるいは、「とりあえず Windows7 に移行し、そのうち様子を見て 8 に切り替えよう」という考え方もあるかもしれません。

つまり、「従来通りのプログラムを従来通り使えれば不満はない」と考えている方にとっては今回の OS は何の魅力もないのですが、最初に書いたように、この新しい OS のセールスポイントは「タッチ操作に対応したアプリ」、すなわち Metro アプリ にあります。
これはさきほどの「デスクトップ・アプリ」と対をなすもので、これに対する評価がそのまま Windows8 全体の評価に直結するわけです。
では、その「 Metro アプリ」とは一体どういうものなんでしょうか?

Metro アプリとは?

Metro アプリがどういうものなのかは、 iPad やスマートフォン上のアプリの動作を思い出してみれば分かるでしょう。
まず、際立った特徴として、「一つのアプリが画面を占有する」ことがあげられます。
これは Windows の用語を使えば、一つのアプリを起動させるとつねに「全画面表示」になる、ということです。私たちはこれまで、Windows というのは「画面上にいくつもの Window ( 窓 ) を開けておき、それらをマルチに使い回す」こと意味するものと思っていましたが、そうだとすると、これは従来の Windows という概念からは逸脱していることになります。
それからもう一つは、「アプリの終了」という操作がないことです。
私たちのこれまでの習慣は「 Window ( 窓 ) を閉じるとアプリが終了する」というものでしたが、さきほど書いたように、Window がないのですから、それを「閉じる」こともできません。
たとえば iPad で電子書籍を読んでいる時、ふと思い出して友達にメールを送ろうと思ったら、ボタンを押してホーム画面に戻ってメールアプリを起動します。そして再び電子書籍リーダーに戻ると、さきほどのページが開いたままになっている。――ようするに、そういう使い方のことです。

ところで、ゲームをしたり本を読んだり、あるいはその合間に友達にメールを送ったり、というような使い方ならともかく、一般のビジネスユーザーにとってこのようなインターフェイスが有用かつ便利なのかというと、いまのところ、そのあたりはよく分かりません。
Windows8 がプレインストールされたタブレットには新しい Office 製品がプレインストールされるらしいのですが、そこで Word や Excel にふれてみれば、何となく「その先」が見えてくるような気がするのですが・・・。 注)

注)
その後、Office 2013 のプレビュー版――どうやら、正式リリースは 2013 年になるらしい――が公開されたのでインストールしてみましたが、なんのことはない、これは従来通りのデスクトップ版でした。ただし、ボタンやアイコンの表示が平板になり、「 Metro 風」にはなっています。

しかし、いろいろと「予測」しているだけでは何も始まりません。
幸いなことに、マイクロソフト社が Visual Studio 2012 Express という Metro アプリの開発ツール ( 非製品版 ) を公開していますので、これを使い、小社のプログラム「RCチャート」にバンドルされている「スラブの設計」の画面を Metro 風に作り直してみました。その成果を下に披露しておきましょう。注)

 

注)
もちろん、これは「外観」を作っただけで実際に動くわけではありませんが、入力作業は行えます。
画面の上の方に四角で囲んだ A という文字が見えていますが、これは現在この位置に入力フォーカスがあり、「半角英数字」の入力モードになっていることを表わします ( タブレット PC であれば、この時、画面の下部にキーボードが見えているわけです )。

一見して気がつくのは画面が全体に「地味」である、ということですが、これはマイクロソフト社が提唱する仕様にしたがったつもりです。それによれば、「その方がユーザーが作業に集中しやすいでしょう」という主旨のようですが、まあ、いわれてみればそうかもしれません。
それからもう一つ気がつくのは、入力ボックスやチェックボックス、あるいはコンボボックスのような各種コントロールのサイズが全体的にゆったりと設計されていることです。これはもちろん、「指の太さ」に配慮したものと思われます。
ところでこれを見て、いわゆる一貫計算プログラムのようなものはともかく、小社で出している「RCチャート」「Sチャート」のようなプログラムであれば、「タブレット PC 版は意外とイケルかもしれない」ということを思いました。もちろん、それに本腰をいれて取り組むかどうかは今後の状況しだいなので、今のところ何ともいえませんが・・・。

Metro アプリはどのように配布されるのか?

それからもう一つ、この Metro アプリに関して忘れてならないことがあります。
これはマイクロソフト社が付与する使用ライセンスのもとでしか動かないのです。で、そのライセンスはどうすれば手に入るのかというと、一般には、「マイクロソフト社が運営する Windows Store からアプリを購入する」以外に方法はなさそうです。
iPad や iPhone をお使いの方ならご存知のはずですが、アプリはすべて App Store から手に入れる必要があり、所定のアプリをタッチすると、ダウンロードもインストールも自動的に行われます ( そして有償のものであれば自動的に課金され、引き落とされる ) ――ようするに、それと同じ仕組みです。
これまでのように、CD-ROM の購入あるいはベンダーのサイトからのダウンロードで入手したプログラムを自分でインストールする、というやり方はできません ( もちろんこれは Metro アプリの話で、従来のデスクトップ・アプリは別ですが )。

マイクロソフト社のサイトから得た情報によれば、Windows Store で販売するためには同社の審査を受ける必要があり、かつ同社に対して一定金額 ( 登録料+売上の一部 ) を支払う義務を負うことになるようです。
とはいうものの、上記の条件さえクリアーすれば、法人・個人を問わず誰でもアプリを公開することが可能になっています。その気さえあれば、自作のアプリを Windows の全ユーザーに向けて公開し、何がしかの評価 ( および、儲け? ) を得ることができるのです。
もしかすると、「タブレット PC で構造計算」という時代もそんなに先のことではないのかもしれません。

( 文責 : 野家牧雄 )