多質点系の振動方程式

多質点系の振動方程式といっても基本は一質点系と同様で、各々の質点ごとに釣合式を立てるだけですが、「剛性」の項については多少の工夫が必要になります。
というのも、左の 2 層建物を見ていただければ分かるように、2 階床の質点 m1 の変位には 1 階のバネ k1 だけでなく 2 階のバネ k2 も関与すると考えられるからです。

まず第 2 層の力の釣合ですが、この層間変位は x2 ではなく x2 - x1 ですから、

  - m2 2 = k2 ( x2 - x1 )

になります。第 1 層には第 2 層から伝わる剪断力も考慮する必要があるので、

  - m2 2 - m1 1 = k1 x1

です。これらを移項して整理すると、各層の力の釣合式は下のようにあらわせることになります。

  第 2 層  m2 2 - k2 x1 + k2 x2 = 0
  第 1 層  m1 1 + ( k1 + k2 ) x1 - k2 x2 = 0

以下、これらのの式の意味について考えてみますが、話の都合上、2 階の質点を節点 1、3 階の質点を節点 2 と呼ぶことにします。
ここで、「節点 1 に変位 x1・節点 2 に変位 x2 が生じている」最終状態は、下図にあるように
  節点 2 が拘束され、節点 1 の変位 x1 だけが生じている 状態 1
  節点 1 が拘束され、節点 2 の変位 x2 だけが生じている 状態 2
の「重ね合わせ」として考えることができます ( 重ね合わせの原理 ) 。

  

上図の右にある通り、節点 1 の上下にバネがあるので、「状態 1 」をつくるためにこの節点に加えるべき力は ( k1 + k2 ) x1 で、その時節点 2 に生じる反力は k2 x1です。さらに「状態 2 」をつくるために節点 2 に加えるべき力は k2 x2 で、この時、同じ大きさの反力が節点 1 に生じます。
さきほどの二つの振動方程式が、この図にある「状態 1 」「状態 2 」の重ね合わせに符合していることは簡単に分かるでしょう。

このような振動方程式は各質点ごとに存在しますが、これをいちいち書くのは面倒なので、ふつうは以下のようなマトリクス表示を行います ( 「マトリクスとは何なんだ ? 」という話はここでは省略 ) 。

  [ m ] { x } + [ k ] { x } = { 0 }

[ m ]質量マトリクス[ k ]剛性マトリクス と呼ばれます。
下にあるのは 3 質点系の振動方程式のマトリクス表示です。



上の剛性マトリクスを見れば分かるように、質点 m1 の剛性はバネ定数 k1k2、質点 m2 の剛性はバネ定数 k2k3 から定まる。ようするにこれは「質点の水平剛性はその上下に接続するバネの値のみから定まり、その他のバネは関与しない」ということですが、このような仮定に立脚した考え方を 剪断型モデル と呼んでいます ( 下図左 ) 。

具体的にいうと、これは「水平力が作用した時に各階の床は水平を保ったまま変位する」、あるいは「この時の柱の伸縮量は小さいので無視できる」という立場です。
日常の構造計算業務に登場する「層間変形角」「剛性率」「偏心率」とか、あるいは「保有水平耐力計算」というようなものも、すべてこの基本仮定に立脚した規定になります。

一方、そうはならない、つまり水平力が作用した時に床に生ずる「傾き」が無視できないのは、全体のプロポーションがスレンダーで建物全体が ( 柱の伸縮によって ) 曲がってしまい、その曲げ変形量が大きい場合です。建物が高層になるほどその傾向は大きくなります。
これが 曲げ剪断型モデル です ( 上図右 ) 。
ただし、かなりの高層建築物でない限り、全体の変形量に対する曲げ変形の占める割合は小さいものです。そこで、曲げ変形分も剪断変形の一部と見なし、全体を剪断型モデルとして扱うことがよく行われます。これは 等価剪断型モデル と呼ばれますが、通常の建物であればこれで十分でしょう。

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