10. 部材の力と変形 (その2)

 剛体変位

部材の変形量は両端の「材端変位」によってあらわされます。しかし、材端変位があるからといって必ずしも部材が変形しているわけではない、ということは、下図にあるような「平行移動」のケースを考えてみれば分かります。


このような平行移動のことを剛体変位と呼びますが、これは i 端の変位量 ( dxi, dyi, dθi ) と j 端の変位量 ( dxj, dyj, dθj ) がまったくひとしい、という状態です。この時、部材にはなんの変形も(したがってなんの内力も)発生しません。なぜなら、

i 端と j 端の「変位量の差」が「部材の変形」になる

からです。
ようするに、私たちがここで問題にしいてる「部材の力と変形の関係」にとって重要なのは、材端変位の値そのものではなく、その相対的な値、つまり「両端の値の差」である、ということです。これを、まず頭に入れておくことにします。

 部材の剛性マトリクス

ここで、もう少し複雑な変位法 で取り上げた片持ち梁の例に戻ります(ただし下図にあるとおり、ここまでの話に沿う形で、部材座標系を「上向きが正・反時計回り」に書き直しています)。


梁の固定端を i 端・先端を j 端とすると、j 端の材端力と材端変位の関係が以下のようになる、ということを私たちはすでに知っています。

pxj = ( EA / L )・dxj
pyj = ( 12EI / L3 )・dyj - ( 6EI / L2 )・dθj
pθj = ( -6EI / L2 )・dyj + ( 4EI / L )・dθj

これは、片持ち梁先端の材端力と材端変位の関係をあらわした「正しい式」ですが、もう少し正確な言い方をするなら、「片持ち梁に限っては正しい式」です。
なぜなら、(上の図からも明らかなとおり)片持ち梁の場合、固定端の側の材端変位 ( dxi, dyi, dθi ) はつねに 0 なので、そもそも「両端の変位量の差」というものを考える必要がなく、先端の材端変位 ( dxj, dyj, dθj ) がそのまま「部材の変形量」をあらわしているからです。

したがって、これを「部材の力と変形の関係」をあらわす一般式に変換するには、上式の材端変位 ( dxj, dyj, dθj ) を、「部材の変形量」つまり「両端の変位量の差」に置き換える必要がある、ということになります。
具体的には、以下のように置き換えを行います。注)

dxj  ( dxj - dxi )
dyj  ( dyj - dyi - L・dθi )
dθj  ( dθj - dθi )

注)
これはようするに、自分の側の変位から相手側の変位を引いたものを「変位量の差」、つまり「自分の側の変形量」とする、ということですが、y 方向の場合には、その方向の変位だけでなく、相手側の回転変位量も関与する点に注意してください。

同様にして、今度は反対に「j 端が固定端・ i 端が先端」になるような片持ち梁を考えて上記の手順を繰り返せば、 i 端側の材端力 ( pxi, pyi, pθi ) をもとめる式も得られることになります。

ともあれ、このようにして、 6 個の材端力を 6 個の材端変位の関数としてあらわした 6 個の式が得られます。
これをマトリクスであらわすと、下にあるように、材端力をあらわすベクトル { p } と 材端変位をあらわすベクトル { d } が 6 × 6 のマトリクス [ k ] によって関連づけられることになります。この [ k ] を部材剛性マトリクスと呼びます。


これは、これまで何度となく話題にしてきた「節点の剛性マトリクス」とは違うものです。しかし剛性マトリクスであることに変わりはありませんから、「対称性」あるいは「対角要素が正になる」というような剛性マトリクスの性質が保たれていることはいうまでもありません。

となると、つぎの話題は当然、「部材の剛性マトリクスからどのようにして節点の剛性マトリクスを作るのか」になりますが、その前に、部材の「ピン接合」の話をしておきます。

 ピン接合の取扱い

「接合」というのは「何かにたいして何かが取り付いている」状態です。ですから「部材の接合」といえば、それは「部材にたいして部材が取り付いている」状態のことをいうはずですが、しかし前にも述べたとおり、変位法ではそのように考えません。部材はつねに「節点」を介して接合されることになりますから、部材の接合状態とは「節点にたいする部材の取り付き」を指すのです。

つまり、「部材端がピン接合である」とは「節点にたいして部材端がピンで接合されている」状態のことです。
これを節点の側から見た場合には、「節点の回転剛性にたいしてこの部材はまったく寄与しない」ということです。また、これを部材の側から見た場合には、「部材端の回転方向の材端力(つまり曲げモーメント)がつねに 0 になる」ということですから、あとは、この状態を部材の剛性マトリクス上にあらわせばいいわけです。

さきほど、「部材端の回転方向の材端力(つまり曲げモーメント)がつねに 0 になる」といいましたが、これは「回転方向にかんする剛性が何もない、つまり 0 である」ということに他なりません。
たとえば、ここに「 i 端が剛接合・ j 端がピン接合」という部材があったとしますが、これは結局何なのかというと、「 j 端の回転方向の剛性が 0 になる」ことをあらわしています。ということは、前項に述べた 6 × 6 の部材剛性マトリクスのうち、「 j 端の回転方向」にかんするものを全部 0 にしてしまえば、それがこの部材の剛性マトリクスになるはずです。注)

注)
もっとも、一方をピンにすると部材端力と変位の関係が変わってきますので、各要素の値が若干変わってきます。つまり、たんにいくつかの要素を 0 にしただけでは正しい剛性マトリクスは得られません。
しかし、ここでの話は「部材端をピン接合にするとはどういうことか」についての説明を主たる目的とするものですので、詳細は省きます。

具体的には 6 行目と 6 列目がこれに該当しますから、ここに全部 0 を入れることにします。これは前に言いましたが、ある行ないし列が全部 0 になっているマトリクスとは、その行ないし列が最初から存在していないことと同じです。したがって、実質的には、このマトリクスは、 5 個の要素をもつ材端力ベクトル ( pxi, pyi, pθi , pxj, pyj ) と材端変位ベクトル ( dxi, dyi, dθi , dxj, dyj ) の関係をあらわす 5 × 5 の大きさをもっていることになります。

これとは逆に「 i 端がピン接合・ j 端が剛接合」になっているのであれば、今度は「 i 端の回転方向」にかんするもの、つまり 3 行目と 3 列目を全部 0 にすればいいのです。
では、「 i 端も j 端もピン接合」の場合ならどうかというと、これはぐっとシンプルになります。
i 端も j 端も曲げモーメントが 0 であれば、当然、この部材のせん断力も 0 になるはずですから、回転方向といっしょに部材軸 y 方向にかんする要素も 0 にしていいことになります。すると結局、2・3・5・6 の各行・各列の値が全部 0 になり、実質的には、部材の軸方向の剛性にかんする要素だけの 2 × 2 の部材剛性マトリクスが出来上がることになります。これが、いわゆる「トラス材」の剛性マトリクスです。

11. 座標変換